Hospitality 「もてなしの心」

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Hospitality「もてなしの心」   

Visit Japan Campaignをご存じだろうか。政府は2003年に観光立国行動計画を発表したが、それは日本を訪問する外国人観光客の数を1000万人に増やそうという計画である。Visit Japan Campaignはその計画の一環である。小泉前首相の肝いりで進められた計画であるが、さてどこまで進むことか。計画の成功の鍵は、日本に来る外国人観光客が日本人からhospitality(もてなしの心)を感じてもらえるかどうかである。

なぜ、hospitalityが重要なのであろうか。似た言葉にserviceがあるが、この言葉と比較しながら考えてみよう。serviceはslaveと同語源で「相手に隷属する者」というニュアンスがある。ゲストとホストが上下関係にあることを示すのである。つまり観光客を迎えるホストが金銭を媒介にして下位にあることを意味する。しかしこれは何か異様な感じがする。レストランやガソリンスタンドで従業員がわざとらしく身をかがめて注文を取るところがあるが、何か卑屈な感じがする。

観光業界では、これからはゲストに対して、サービスよりもホスピタリティを提供すべきとよく言われる。hospitalityは、host「主人」を語源として、hostess, hostel, hotel, hospital, hospiceなどと同根である。ここには、ホストがゲストに対して暖かく歓待するというイメージが感じられる。言い換えれば、hospitalityには、「客人の歓待」というニュアンスがあるので、ホスト側の主体性を強調する言葉として注目されるようになったのである。そこでは、ゲストとホストが平等の立場から、相互に理解して信頼する関係にある。対等な人間どうしが同じ時間と空間を共有しており、究極的には、世界的な規模において人類の共存を意味するまでに発展する可能性がある。

しかし、hostを語源として、もう一つの意味が発展してきたことも忘れてはならない。この語からhostileやhostilityが派生してきたのである。異国から来た旅人は得体の知れない不気味な存在でもあるので、hostilityを感じる人もいる。我々は、見知らぬ旅人を歓待したいという気持ちと、警戒したいという気持ちの両方を抱く。ここに異人に対して人間の抱く両義的ambivalentな感情が表れている。

外国人が日本に移住してくることをどう思うか、アンケート調査によれば、反対論が根強いようである。外国人による犯罪が増えるとか、日本人としてのアイデンティティが失われる、とか数々の理由が挙げられている。この点では、外国人観光客の増加に対しては歓迎論が目立つのと、対照的である。外国人観光客として数日ほど日本に滞在してお金をたくさん落としてくれるのは歓迎するが、日本に定住されるのは避けたいというのが本音のようである。

「国際化の時代」だとよく言われるが、日本が、真に開かれた国になる時とは、外国人観光客だけにhospitalityを示すのではなくて、移住してくる外国人にもhospitalityを提供できるようになった時であろう。

自分が参加した本を一冊紹介する。おもてなしの観光英語 (Hospitality English) というテキストである。

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