音吉/『日本語の科学』

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2015-05-10

ある先生が私の研究室に来られていくつかの話をしてくれた。興味ふかい話を一つ教えてもらったので紹介したい。幕末のころだが、船乗りだった音吉という少年たち3人が難破して遠くアメリカまで流されたしまう。そこでアメリカインディアンに奴隷として捕まる。しかし、その後イギリス人に売られて、さまざまなことを経験した後に、この3人はチャールズ・ギュッラフというドイツ人宣教師に手伝って世界で最初の日本語訳の聖書「ギュツラフ訳聖書」を出すことになる。そのとき、ヨハネによる福音書を訳するときはいろいろと苦労があったようだ。

ヨハネの福音書の冒頭は今では「始めに言葉があった」と訳されている。日本語訳を担当した彼らは普通の生活を送っていた船乗りであり、何か教養があったわけではない。この聖書の翻訳は、彼らの言葉、すなわち船員言葉を用いて訳したそうである。またその村の唯一の教養人であるお寺の和尚さんの説教を思い出しながら翻訳をおこなっていったので、和尚さんの口調がまじっているそうである。「ことば」を「かしこきもの」と訳したので、冒頭の部分は「はじめに賢きものがあった」となったそうだ。

この先生は数年前まで本学の教授であったが、定年退職されて、現在は非常勤で働いていらっしゃる。定年後の身の振り方などをいろいろと教えてもらった。また、このように学問的な話も教えてもらい、今日はとても勉強になった。

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今日は注文していた本『日本語の科学が世界を変える』(松尾義之、筑摩選書)が到着した。研究者仲間のM先生から面白い本があるからと薦められたので注文したのである。先ほど読み上げた。確かに面白い本なので、これまた紹介したい。私自身は日本の科学の研究はたしかに盛んであるが、応用方面の科学が盛んであり、理論研究や純粋な科学研究(基礎研究)は不得意であると思っていた。しかし、この考えは間違っているようだ。現代では、その分野もかなり成果を出している。日本人研究者たちは日本語という西洋語とはかなり異なる言語で思考するので、西洋人の気づかない視点から考えることができる。その点が最近の科学研究に有利に働いている。そのような内容がこの本の趣旨である。以下、面白いと思ったか所を下に示す。

p.21 ハングルは漢字を捨てたことで同音多義語が増えて混乱が生じて学問研究にはかなり不利になった。(サムソンの躍進などを見ると韓国の科学技術もかなりの水準に達したという印象を持っていたがそうではないようだ)

p.27 世界共通の言語はブロークン英語である。世界中の人が自国なまりの英語で互いにコミュニケーションをしているのが現実である。(私も同意する)

p.118 日本人は思考で「中間的」なものに関心をしめす。湯川博士の中間子論も日本人の典型的な思考の成果である。

p.130 西洋の思考は、「二者択一」の傾向がある。それゆえに、曖昧なものへの敵意、反感が見られる。

p.136 ノーベル化学賞と物理賞の違いは、分子より大きいものを対象とするのはノーベル化学賞であり、原子よりも小さいものを対象とするのはノーベル物理賞である。(これは私の全く知らなかったことで、なるほど)

p.142 近年、日本から画期的な発見が相次ぐ(私は日本の科学は西洋よりもかなり遅れていて、せいぜい応用の分野でなんとか頑張っているという印象を持っていたので、これは意外であった)

p.159- 西澤潤一博士と東北大学の貢献度についても教えてもらった。西澤博士はノーベル賞に値する研究をされているようだ。

p.210 アメリカやヨーロッパからの論文が最近つまらなくなった。また中国、韓国の論文も数は増えているが、つまらない論文ばかりだという。

以上、かなり科学史や最新の科学情報など門外漢の自分にたくさんのことを教えてもらった。日本語がどのように科学に貢献するのか。とにかく英語ばかりに頼ると思考が袋小路に陥る危険がある。やはり、多文化、多言語という下地があって、はじめて科学の発達がありうるということのようだ。

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音吉/『日本語の科学』」への1件のフィードバック

  1. […] ただ言語に関する事実を提示して、それが学生が自主的に考える助けになればと思う。本当に世界の人全員が英語を話すようになれば、ユートピアが出現するのか。言語と思考がある程度、強く結びついているか弱く結びついているかは別として、関連するのは事実であろう。その意味で、先日読んだ『日本語の科学は世界を変える』(筑摩選書)リンク先は興味深かった。多様な考え方、感じ方、生き方を保障するものとして、言語の多様性は必要である。 […]

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