6年前の昨日に東日本大震災が起こったのだ。その時には、日本人だけではなくて、外国人も同様に大きな被害を受けた。これは神戸の大震災の時も同じであった。
大災害の時には、日本人たちでも災害情報を十分に入手できない。ましてや外国人達にとっては、必要な情報が彼らの元に届かないことが多い。そのことが災害を拡大した面がある。そのことの反省から、必要な情報が外国人にできるだけ速やかに届くようにと「やさしい日本語」の活用が提唱されたのである。
今回は「やさしい日本語」の研究者の第一人者である、佐藤和之先生(弘前大学教授)からメールをいただいたので、ここに紹介して、皆様が「やさしい日本語」への関心を深めて、さらに外国人の方々の支援の手を伸べられることを願う次第である。以下は佐藤先生からのメールである。
東日本大震災から6年目に際しての減災のための「
やさしい日本語」資源公開のお知らせ
このメイルは、「やさしい日本語」に理解を示してくださる研究者の皆さんへ、 Bccでお届けしています。 ご挨拶と御礼
弘前大学社会言語学研究室(教授 佐藤和之)と東北大学知的通信ネットワーク工学研究室(教授 伊藤彰則)です。きょうで、東日本大震災からちょうど6年になります。 弘前大学も東北大学も同じ東北にある大学として被災地をかわらず 支援してまいります。
阪神・淡路大震災から始められた災害時の外国人に「やさしい日本語」で災害情報を伝える研究も22年目ですが、「 やさしい日本語」を使った支援は皆さんからの理解を得られ、 広く使われるようになりました。また、 プラグマティックな言語研究のあり方として、 言語研究者の皆さんからの理解をいただけていることも嬉しく思い ます。本日は少々長いメイルになりますが、お付き合いください。 本日、
弘前大学の社会言語学研究室と東北大学の知的通信ネットワーク工 学研究室では3編の「やさしい日本語」資源を公開しましたので、 お知らせします。 『生活情報誌作成のための「やさしい日本語」ガイドライン
~街の外国人に生活情報を伝えるために・カテゴリーⅡ~』について
多くの自治体と外国人支援団体が「やさしい日本語」を災害時の情報伝達手段として使うようになりました。 2016年12月の活用数は全国各地で約700件でした。 大きな広がりをみせる「やさしい日本語」ですが、じつは、 それらの多くが全文ひらがな書きだったり、 漢字にルビを振っただけだったりなど、 読み手の理解を考慮していない文体が多いという現実も生じていま した。情報を伝える側は「やさしい日本語」 での文作りに日頃から慣れていることが必要です。不慣れだと、 災害発生時に肝心の避難や注意喚起などの情報を的確に伝えられな いという問題が生じるためです。
そこで研究室では災害発生からの72時間に、命を守る情報を確実に伝える「やさしい日本語」をカテゴリーⅠ( CATⅠ)、日頃からの生活情報を伝える「やさしい日本語」 をカテゴリーⅡ(CATⅡ)として、 使用語彙や文規則を使い分けることにしました。 2016年の3月には、CATⅡで使う語彙6850語を確定し、 『生活情報誌作成のための「やさしい日本語」用字用語辞典』 として公開しました。本年は、 それらを使って生活情報を伝える文規則を提案することにしました 。それが、この『生活情報誌作成のための「やさしい日本語」 ガイドライン』です。CATⅡ 用に新たな14の規則を定めました。この規則に従うと、 外国人住民の80% 以上が生活情報を理解する文体で伝えることができます。 このときの外国人住民ですが、CATⅠ の対象外国人より少し日本語能力が高く、 辞書などを使いながら雑誌などを読める程度の人たちです。 日本語能力試験でいうとN2,N3(旧試験2級) 程度の外国人です。
ガイドラインは、自治体や外国人支援団体の皆さんが、「やさしい日本語」 を用いた生活情報誌を作成できるようになることを目的に作りまし た。「やさしい日本語」 の活用を災害時だけでなく生活情報誌へ広げることで、 情報を伝える側と受け取る側の両者が「やさしい日本語」 に日頃から触れることができ、 災害時の情報伝達がよりスムーズになると考えました。 『さくさく作成!「やさしい日本語」
を使った緊急連絡のための案文集 ②
〜災害時におけるスマートフォンでの連絡編〜』について
社会言語学研究室は「やさしい日本語」研究を通じて、様々な情報の提供方法や掲示物、放送用案文等を作成、 提案してきました。阪神淡路大震災から22年が経ち、 以前にはなかった情報の提供手段としてスマートフォンが注目され ています。スマートフォンの個人保有率は、日本で53%、海外( 日本、米国、英国、フランス、韓国、シンガポールなど)で70~ 80%(総務省調べ)とされています。 そこで研究室では災害時の緊急情報をスマートフォンで実現できな いかと考え、スマートフォン対応の案文集を作成しました。 災害時にスマートフォンメールを活用する利点として以下の5点を 考えています。
①緊急性の高い情報を迅速に伝えることができる
スマートフォンメールによる情報伝達は大勢の人へ一斉、かつ迅速に配信できますのでとても有益です。また、 掲示物や広報車等による伝達より幅広い範囲へ一斉、 かつ即座に伝達できる点も特徴的です。
②情報を後から見返すことができる
掲示物や広報車などによる放送は、その場その瞬間だけの情報で、後になってから別の場所でもう一度確認することはできません。 しかし、 スマートフォンメールを使った情報なら配信された段階で各自のス マートフォン端末に保存されますから、 それぞれが必要な場面で必要になったときの確認が可能です。
③より詳細な情報を伝えることができる
掲示や音声での情報は、読みやすさや聞き取りやすさを重視しますので、 自ずと少ない情報量にならざるを得ません。しか、 スマートフォンメールなら、少々情報量が多くとも、 それぞれの自由な時間に必要な部分だけを読むことができます。 また日本語が得意な仲間にそれを見せて尋ねることもできます。
④次々に変わる情報をリアルタイムで発信できる
災害時は状況が次々に変わります。掲示物や放送では、見たり聞いたりできる範囲が限られてしまいますから、 次々と変わる情報に合わせて伝えることは困難でした。 スマートフォンメールは幅広い範囲の個々人に向けて素早く届きま すので、次々に変わる情報を発信するのに適しています。
⑤避難所にいない被災者でも最新の情報を受け取ることができる
スマートフォンメールという媒体の特性から、指定避難所にいない被災者でも配信を受けることができ、 掲示物より詳細でリアルタイムの情報を誰でも円滑に受け取ること ができます 「『やさしい日本語』作成支援アプリケーション『やんしす(
YAsasii Nihongo SIen System)』」について
「やさしい日本語」は、日本人にとってほかの外国語よりも作成しやすいものですが、 一般の方にとっては、どのような日本語が「やさしい日本語」 なのか理解しにくいものです。そのため、 日本語で文を作成した時に、 外国人に代わって文のやさしさを教えてくれるアプリケーションが 「やんしす(やさしい日本語支援システム)」です。
我々のグループは、2008年から「やんしす」の開発を続けてきました。最新版の「やんしす」は、 次のような機能を備えています。
①文章を入力した場合に、そのわかりにくい点を指摘します。文章のわかりにくい点を修正することで「やさしい日本語」 を作成することができます。
②作成した文章のわかりやすさを数値化して表示できます。単に「わかりやすい」「わかりにくい」だけでなく、 どの程度のわかりやすさなのかを直感的に把握しやすくなります。
③音声合成システムを内蔵しており、「やさしい日本語」による音声アナウンスを作成することができます。
「やんしす」は、次のURLからダウンロードしていただけます。また、Android版はGoogle Playからインストールすることが可能です。⇒ http://www.spcom.ecei.tohoku. ac.jp/YANSIS どこで見られるのかとお願い
これら3資源のうち、『生活情報誌作成のための「やさしい日本語」ガイドライン~ 街の外国人に生活情報を伝えるために・カテゴリーⅡ~』と『 さくさく作成!「やさしい日本語」 を使った緊急連絡のための案文集 ②〜災害時におけるスマートフォンでの連絡編〜』は、 3月11日の正午に弘前大学社会言語学研究室のホームページで公 開しました。ホームページアドレスは以下の通りです。 検索エンジンをお使いの場合は「弘前大学 やさしい日本語」と入力ください。⇒ http://human.cc.hirosaki-u.ac. jp/kokugo/
また「『やさしい日本語』作成支援アプリケーション『やんしす(YAsasii Nihongo SIen System)』」 は東北大学知的通信ネットワーク工学研究室のホームページで公開 しました。ホームページアドレスは以下の通りです。 検索エンジンをお使いの場合は「東北大学 やんしす」と入力ください。⇒ http://www.spcom.ecei.tohoku. ac.jp/YANSIS 最後にお願いがあります。
災害時の言語支援を私たちの力だけでするには限界があります。 本日、ご案内を差し上げました皆さまには、「やさしい日本語」 で情報を伝える意義をご理解いただき、 おそば近くの皆さんと一緒に考える機会や時間を作っていただけま したら嬉しく存じます。そのとき、 本日のような資源が用意されていることにも触れていただけました ら幸いです。
私たちは、阪神淡路大震災や東日本大震災での言語経験を風化させることなく 未来につないでいきたいと考えています。 お力添えを宜しくお願いいたします。 2017年3月11日
〒036-8560 青森県弘前市文京町1
弘前大学人文社会科学部
社会言語学研究室ゼミ生一同
教 授 佐 藤 和 之
0172-39-3227(佐藤直通)
kazykis@hirosaki-u.ac.jp(佐藤直通)