元電気通信大学教授の松原好次先生から、新著『ことばへの気づきーカフカの小篇を読む』をご恵贈いただいた。あらためて感謝の念を表明すると同時に、内容を紹介したい。
著者は私とほぼ同世代であり、一緒に本を書いたこともある研究仲間である。私はセミリタイアの生活を送っており、研究の第一線からは退いている。今では学生への教育にエネルギーの中心を注いでいる。ところが、著者の松原先生は絶え間なく研究を続けられ、今回は『ことばへの気づき』という本を刊行された。
私は完全リタイアしたら、どうしたらいいのか迷っている。わたしは石川県の田舎に隠居生活をしたらどのようにして生きていけばいいのか模索中である。その意味では著者の退職後も本を出版して有意義に過ごしている姿は見習うべきだと思った。
著者はカフカの作品を中心にドイツ語の原文や訳本から触発された問題意識、それを現代の諸問題とリンクさせて考え抜いていこうとする姿勢は素晴らしい。私は石川県の田舎に隠居生活をする予定であるので、東京に住んでいる著者とは条件が異なる部分もあるが、基本的にはこのように老後を送りたいと思っている。著者の生き方は参考になる。
著者はp.19以降に、自分自身が前立腺を患った話が出てくる。ここは有意義だが、読んでいくのは怖い時もあった。自分とほぼ同世代の人間が病気になった話は、「いつまでも自分は健康だ」と思いこもうとしていた自分には警鐘となった。カフカは40歳になる寸前で結核でなくなったことや、正岡子規の病気の話も紹介されている(p.219)。子規の著作『病狀六尺』、『仰臥漫録』は私にとっても、愛読書であり、その壮絶な闘病日記を、おそるおそる読んだ記憶がある。
ここで、私が読んで興味を引かれた部分を箇条書きにして記してみたい。
(1)p.78に、ロビンソン・クルーソーへの言及がある。カフカが述べるには、ロビンソン・クルーソーが孤島の山頂にて、すべてが見渡せる場所に留まっていたならば、絶望のあまり短命であったろうとのことだ。島の中の最もsichtbar な地点とは、訳者の多くは、ロビンソン・クルーソーから見て、見渡しのいい場所としていたが、実は船から見て一番よく見える場所であった、と著者は解釈している。注意深く本を読むと、この様なことまで見えてくるのかと著者の慧眼に脱帽せざるを得ない。
(2)p.107 著者は若い頃にシューベルトの『セレナーデ』を聞いて感銘を受けたとある。もの悲しい曲で、私にとっても好きな曲である。
(3)p.120の格言 Life is short; Art is long だが、芸術は長し、と訳されているが、Art には技(わざ)の意味があり、むしろ「学問技術の世界は広くて、前途はほど遠い」との説を紹介している。なるほどと肯く次第である。
(4)p.182 にイルカの交信は、音と音の間の無言の間の長さによってなされる、という説を紹介している。面白い。
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私は現在71歳だが、この本を読んでの感想は、「よし俺も頑張るぞ、この著者みたいに本を読み、世界の出来事に関心を持ち続ければ、老後もけっこう、面白いぞ」という気持ちになった。もちろん若い人が読んでも有益な本であり、触発される箇所がたくさんある。
河原先生、お読みいただいたうえ、貴重なるコメントを
有り難うございました。第二集に向けて少しずつ進んで
いこうと思っています。
午前中、独和辞典を片手にカフカを読み、昼食後、調布市の
市民農園で野菜の栽培をしています。今日はブロッコリー、
キャベツ、小松菜の収穫がありました。今、帰ったところです。
河原先生のご活躍をお祈りいたします。
松原好次
先生の第二集の御本の発刊楽しみにしています。寒くなってきましたが、どうぞご自愛ください。