シンポジウム『地方創生 岐阜から』を聞く。

昨日は、シンポジウム『地方創生 岐阜から』を聞いた。岐阜新聞社が開催したシンポジウム『地方創生 岐阜から ー岐阜と名古屋 競争と競合の時代ー』が岐阜駅前の「じゅうろくプラズ」で開催されたので、聴衆の一人として参加した。それぞれ面白そうな内容をメモに取ったので、ここに示したいと思う。

はじめは、基調講演として考古学者である千田嘉博氏による「美濃と尾張ー城から見た競争と共働-」があった。千田氏は、名古屋城と岐阜城を比較された。名古屋城は平屋がたくさん並ぶ地域が次第に頑丈な城に発展していったのだが、岐阜城は最初から石垣を用いた、防衛を意識した当時としては先端的な城であったそうだ。この岐阜城の方式が次第に全国の城に広まっていったので、岐阜城は全国の城の原型とも言えるそうだ。また、小牧の町並みだが、ブロックの中に空き地を含まないような、町屋の密集した町並みだそうだ。この町並み方式が京都にも影響を与えたそうである。また、面白いのは、信長の楽市令である。これは当時としては画期的な(今でも、画期的な)政策であり、要は住み着いてくれたら、税金はなし、今までの借金は棒消し、という特典を与えるという政策だ。これならば、確かに人々は集まる。信長の政策が中世から近世へと大きく動かしたそうだ。そのように、美濃と尾張は日本を動かした歴史があり、それは今でも可能だという話だ。

次は4名のパネリストによるディスカッションであった。河村たかし氏(名古屋市長)、柴橋正直氏(岐阜市長)、松家鮎美氏(岐阜薬科大学准教授)、秋元祥治氏(NPO法人G-net創業者、武蔵野大学教授)がパネリストであり、コーディネーターは矢島薫(岐阜新聞社社長)であった。それぞれのパネリストがいろいろなアイデアを提出された。それらを下のようにまとめてみる。

河村市長は、名古屋市の概要を話し、昨年で年で120億円の減税をしたそうだ。名古屋市は百万世帯があるので、一世帯に12万円を減税した効果があるとのことである。あとは、マイナンバー制度に批判的であり、リニアの開通にも歯切れの悪い説明であり、あまり歓迎していないという印象をうけた。河村市長は提案と言うよりも、名古屋の現況の説明が多かった。なお、河村市長は自分は日本で一番給料の安い市長で年間800万円しかもらってないと自虐的に述べていた。

柴橋市長は、岐阜は枝豆が名物であること、岐阜和傘は侍の内職から起こり、岐阜の伝統であるが、高齢化が進み技能の継承が難しくなっていると述べていた。保育園のオムツの回収をはじめたのは岐阜市の貢献だそうだ。秋元氏の奥様がオムツの持ち帰りを不要と考えて、秋元氏経由で柴橋市長に訴えたところ、よいアイデアとあると考えられて、さっそく採用となったそうだ。

秋元氏は、これから岐阜の人口は5万人が減ってゆくのであり、その人たちの平均年収が300万円と考えると、今後1500億円の購買力が減少するのであり、これに危機感を持つべきことを述べられた。これは柴橋市長も述べられていたが、駅前の再開発は必要であり、近鉄とJRの駅との結合などが有益と述べられていた。

松家氏は、自分が取材したノースカロライナのある町が研究で再生した例を述べられて、Research Triangle さらにはResearch Belt を提唱された。そこでは大学発の起業がおこるように条件の整備が必要とされた。なお、同氏の勤務される岐阜薬科大学は論文の発表数が日本一とのことである。この事実も岐阜がResearch Belt となる可能性を裏付けるものである。また、引きこもり対策として、自宅で引きこもりであるよりも、外に引きこもる場所をつくり、そこで引きこもってもらったほうが、外との接触も増えて引きこもり解消につながると提案された。 

このようにいろいろな提案があった。メモを見直しながらブログに書いているが、記憶の違いがあるかもしれない。その点はご寛容いただければと思う。

シンポジウム

コロナ、観光立国、ツーリズムイングリッシュ


コロナウイルスだが、いつになったら終息するのかまだ見通しがつかない状況だ。それに関連して私の研究について若干述べてみたい。

私は、佐良木昌先生が研究代表者となる基盤研究「高度翻訳知識に基づく高品質言語サービスの研究」の研究分担者として、この3年間研究を行ってきた。そして、この3月でその研究は終了を迎える。その研究の報告として、12月15日の科研費合同研究集会(早稲田大学)で、「地方大学における『観光英語』の授業のあり方について」を行った。そこでは、私が行ってきたツーリズムイングリッシュ(観光英語)の授業について実践報告をした。

また、3月7日には、名古屋外国語大学でおこなわれる大学英語教育学会・中部支部研究会で、この科研で行った研究のまとめを発表する予定であった。しかし、その研究会発表は、コロナウイルス拡大防止のために中止となった。

この二つの発表(12月15日、3月7日)は、基本的には、観光客の増大=日本の利益、という視点から行われている。学生には、工業立国として発展してきた日本だが、これからは観光立国として第三次産業を充実させていかねばならない、と述べてきた。そのために、観光英語の授業は学生の役に立ち、この授業をとることで、日本の発展に貢献し、グローバル化に対応することになり、学生自身も観光業などで就職の機会が見つかりやすくなる、すべてはバラ色だ。極端に言えば、そんなことを授業で述べて学生のモチベーションを高めていたのだ。

しかし、今回のコロナウイルスの蔓延という事態を見て、私自身の考えはかなり足りない点があったのだな、と気づいたのである。具体的には、観光立国という点で一直線に進むことに潜む危険性を見落としていたことである。2か月観光客が来なくなれば、観光業界では倒産する企業も出てくるだろう。そこで働く人たちには失職する場合もある。観光業とはもろい産業でもある。そのほか、様々な問題点が浮き彫りになったのである。

自分が来年度に担当するツーリズムイングリッシュ(観光英語)の授業においては、そんな視点もあるからと学生に注意を喚起させたいと考えている。

この流動的な情勢で、最終的にはどのように収まるのか現時点では予想は付かない。ある程度おさまった時点で、ツーリズムイングリッシュ(観光英語)の授業そのものについて分析しなおしたいと考えている。

なお、下に掲げたのは、科研の報告書の私の担当部分の総括である。この研究がもう一年が後ろにずれていれば、コロナウイルスで露わになった負の側面も述べてみたいが、現時点では無理である。とにかく、今年の3月で終了となるプロジェクトの総括として参考にしてほしい。


研究の総括的概要
 基盤研究「高度翻訳知識に基づく高品質言語サービスの研究」の研究分担者として、「言語サービス」、「観光」、「地方」、「翻訳」をキーワードにして、研究を3年間続けた。
 「言語サービス」の研究の発端は多文化・多言語化する日本社会における外国人住民への支援であった。しかし、行政からの財政的な支援が十分とは言えない状況であった。それは、とくに「地方」では顕著であった。
 ただ、オリンピック開催決定より「観光」への関心が強まっている情勢を活用することができる。観光英語をはじめとした言語サービスを充実させることが、長期滞在の外国人住民と短期滞在の外国人観光客の双方に有益である。その場合は、正確な「翻訳」だけではなくて、より実用的で、すぐに利用できる「翻訳」が必要である。例えば、スマホに数々の翻訳アプリを組み込ことで、それらが可能となる。
 研究分担者が現在住む岐阜県は観光県としてはさほど有名ではない。しかし、外国人にも岐阜県の歴史(織田信長、斉藤道三など)を広く伝えることで、「地方」の観光資源の活用ができる。歴史プラス健康法、グルメなどの文化を加味することで、単に「観る」観光から「体験する」観光へと広がりを持たすことができる。それには、やはり通訳・翻訳などの言語サービスの充実が必要である。
 3年間の研究により、言語サービスについて以上のような展望が得られた。


 

関市の貝印の工場を訪問した。


ビジネスイングリッシュの受講生が岐阜県の関市にある貝印の工場を訪問した。海外展開をしている貝印の会社では、女性社員がどのように活躍しているか、また英語がどのように使われているかを知りたいと思い、受講生達が訪問したのである。

関市は昔から刃物の町として知られている。関市ではいくつかの有名な刃物の会社がある。歴史的に有名な匠として、関孫六が日本刀を鍛冶したのも関市である。大学からタクシーで15分ほどの距離にある貝印の工場の一つを訪問した。

総務のチーフマネージャーの成瀬さんが親切に迎えてくれて、はじめに貝印の会社の歴史、現状などをパワーポイントを使いながら教えてくれた。この会社の強みは、世界でのオンリーワンとなる技術をたくさん持っている点である。現在は世界において科学技術の競争が激しい。とくに、スマホ、パソコン、自動車などはその最先端である。同様に、この刃物の分野でも、競争が激しいが、日本が圧倒的な優位を占めている分野である。カミソリ、爪切り、はさみ、包丁などは日常生活でもよく使われる。さらには、医学の分野でのメスや理容師のはさみなどは精密度が要求される。それらの分野において、この会社がおおきな貢献をしていることが分かった。

さて、会社の説明を聞いたあとに、会社の製品の説明を受ける。髪の毛が落ちないようにとヘアーネットをかぶる。

説明を受ける学生達
製品を近くで見る。

この後で、会社の製造工程を案内してもらった。なお、製造工程は核心技術が多いので写真撮影は禁止であった。私の印象では、この工場では、人間が何か作るのではなくて、おおくの過程が自動化されている、人間はそのオートメーションの管理、ならびに製品の検査という仕事がほとんどであった。

その後は会議室に戻り、女性社員でベトナムからのアンさんの紹介があった。

女性社員の紹介

貝印は、アメリカ、中国やベトナムに工場を持っている。その地では多くの外国人社員が働いている。アンさんは現在はこの工場で働いているが、海外への出張も多くて、三カ国語(ベトナム語、英語、日本語)を駆使されて大活躍をしている。我々とは日本語でコミュニケーションをしたのだが、アンさんの日本語は非常に堪能で、声を聞いた限りでは日本人と変わらないほどであった。海外で活躍する貝印では、これからも外国人の社員の力がますます必要になってくるとのことであった。そのような時代に、英語の重要性は言うまでもないとのことだ。

なお、女性社員がどのように活躍しているかだが、この会社では男女の比率は半々だそうだ。さらには、この会社では、産休や育休制度が整っていて、女性社員が働きやすい環境作りができている。離職率が少ないのもこの会社の特徴と聞く。

会社訪問しての印象だが、地方にある工場だが、目は世界に向いている、世界に向けて日本をアピールしている会社だと感じた。総務の成瀬さん、アンさん、からは分かりやすい説明と丁寧な対応をいただいて感謝している。訪問した女子学生達も何かを掴んだようだ。これからもこの会社が大いに発展していくことを確信したのである。