コロナ、観光立国、ツーリズムイングリッシュ


コロナウイルスだが、いつになったら終息するのかまだ見通しがつかない状況だ。それに関連して私の研究について若干述べてみたい。

私は、佐良木昌先生が研究代表者となる基盤研究「高度翻訳知識に基づく高品質言語サービスの研究」の研究分担者として、この3年間研究を行ってきた。そして、この3月でその研究は終了を迎える。その研究の報告として、12月15日の科研費合同研究集会(早稲田大学)で、「地方大学における『観光英語』の授業のあり方について」を行った。そこでは、私が行ってきたツーリズムイングリッシュ(観光英語)の授業について実践報告をした。

また、3月7日には、名古屋外国語大学でおこなわれる大学英語教育学会・中部支部研究会で、この科研で行った研究のまとめを発表する予定であった。しかし、その研究会発表は、コロナウイルス拡大防止のために中止となった。

この二つの発表(12月15日、3月7日)は、基本的には、観光客の増大=日本の利益、という視点から行われている。学生には、工業立国として発展してきた日本だが、これからは観光立国として第三次産業を充実させていかねばならない、と述べてきた。そのために、観光英語の授業は学生の役に立ち、この授業をとることで、日本の発展に貢献し、グローバル化に対応することになり、学生自身も観光業などで就職の機会が見つかりやすくなる、すべてはバラ色だ。極端に言えば、そんなことを授業で述べて学生のモチベーションを高めていたのだ。

しかし、今回のコロナウイルスの蔓延という事態を見て、私自身の考えはかなり足りない点があったのだな、と気づいたのである。具体的には、観光立国という点で一直線に進むことに潜む危険性を見落としていたことである。2か月観光客が来なくなれば、観光業界では倒産する企業も出てくるだろう。そこで働く人たちには失職する場合もある。観光業とはもろい産業でもある。そのほか、様々な問題点が浮き彫りになったのである。

自分が来年度に担当するツーリズムイングリッシュ(観光英語)の授業においては、そんな視点もあるからと学生に注意を喚起させたいと考えている。

この流動的な情勢で、最終的にはどのように収まるのか現時点では予想は付かない。ある程度おさまった時点で、ツーリズムイングリッシュ(観光英語)の授業そのものについて分析しなおしたいと考えている。

なお、下に掲げたのは、科研の報告書の私の担当部分の総括である。この研究がもう一年が後ろにずれていれば、コロナウイルスで露わになった負の側面も述べてみたいが、現時点では無理である。とにかく、今年の3月で終了となるプロジェクトの総括として参考にしてほしい。


研究の総括的概要
 基盤研究「高度翻訳知識に基づく高品質言語サービスの研究」の研究分担者として、「言語サービス」、「観光」、「地方」、「翻訳」をキーワードにして、研究を3年間続けた。
 「言語サービス」の研究の発端は多文化・多言語化する日本社会における外国人住民への支援であった。しかし、行政からの財政的な支援が十分とは言えない状況であった。それは、とくに「地方」では顕著であった。
 ただ、オリンピック開催決定より「観光」への関心が強まっている情勢を活用することができる。観光英語をはじめとした言語サービスを充実させることが、長期滞在の外国人住民と短期滞在の外国人観光客の双方に有益である。その場合は、正確な「翻訳」だけではなくて、より実用的で、すぐに利用できる「翻訳」が必要である。例えば、スマホに数々の翻訳アプリを組み込ことで、それらが可能となる。
 研究分担者が現在住む岐阜県は観光県としてはさほど有名ではない。しかし、外国人にも岐阜県の歴史(織田信長、斉藤道三など)を広く伝えることで、「地方」の観光資源の活用ができる。歴史プラス健康法、グルメなどの文化を加味することで、単に「観る」観光から「体験する」観光へと広がりを持たすことができる。それには、やはり通訳・翻訳などの言語サービスの充実が必要である。
 3年間の研究により、言語サービスについて以上のような展望が得られた。


 

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台湾のある村で日本語が日常的に話されている?


毎日新聞のTwitter には次のような記事が紹介された。それは非常に興味深いので、このサイトでも紹介したい。

台湾北東部の寒渓など4村では、日本語と先住民タイヤル族の言語が混ざって形成された新言語「宜蘭クレオール」が中高年を中心に話され、現地では「ニホンゴ」などと呼ばれています。村人たちの会話を撮影しました。

この動画のリンク先はいつまで存在するか分からない。リンク切れの場合はご容赦を願いたい。

言語が使われているのは台湾東部にある、宜蘭県の大同郷寒渓村と南澳郷東岳村・金洋村・澳花村の4つの村が中心である。

この寒渓語は語彙が7割が日本語で3割がタイヤル語由来のクレオール言語である。この言語は、宜蘭クレオール(ぎらんクレオール、Yilan Creole)とも、あるいは、寒渓タイヤル語、寒渓泰雅語とも呼ばれているそうだ。

台湾に行く機会があったら、是非とも、これらの村を訪問してみたいなこと思うが、おそらく観光地としては、まだ整備されていないのだろうと思う。

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やさしい日本語ツーリズム

雑誌 Travel Journal (2016-10-17) の記事「外国人観光客は話したがっている」(著者:吉開章)は非常におもしろい記事だったので、紹介したい。要旨は以下の通りである。


日本に来る外国人観光客を迎えるには英語で行うべきだ。あるいは、その観光客の話す言語、中国語、韓国語、タイ語などで観光に関する言語サービスを提供するという認識が日本人の間にゆきわっっている。しかし、中には日本語でコミュニケーションを行いたいと希望する観光客もいる。

韓国・台湾・香港には多くの日本語学習者がいる。彼らは趣味的に日本語を学んでいるが、日本旅行の際には自分の日本語能力を試してみたいと考えているのである。彼らは、言葉の不便さを楽しみたい、勉強した日本語をドキドキしながら試みてみたいと考えているのである。

日本人は英語教育や多言語対応に奔走して、それらにコストをかけすぎている。日本に来る外国人観光客のかなりの数、近隣のアジア諸国が多いのだが、かれらは日本語にある程度慣れている。その力を活用して「やさしい日本語ツーリズム」を開発すべきである。

ただ、日本語を押しつけであるべきではない。あくまでも観光の目玉の一つとして提供すべきである。それに興味を示してくれる観光客にのみ提供すればいいのだ。

日本は高齢化社会となりかってのような経済成長は望めない。しかし、まだ世界的には日本はブランドである。そして日本語もブランドである。日本がフランス級の観光立国になれるかもしれない。そのための一つの可能性として「やさしい日本語ツーリズム」がある。


だいたい、以上のような趣旨である。私自身は日本に定住する外国人にやさしい日本語を提供することは、大切なことと認識していたが、外国人観光客にも提供できる可能性があることを知っておもしろいと思った。

観光立国で求められているちょっとした施策

2016-06-23

2015年の外国人訪問数は 1978人に増えた。何回も日本を訪れる人の数も増えて、その場合は東京ー富士山ー京都というゴールデンルートではなくて、今まで外国人観光客が訪れることが少なかった地方にも興味を示すようになってきている。

その場合のちょっとした施策であるが、wi-fi の普及と和式トイレから洋式トイレへの転換が要のようだ。

サイト「ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌」(http://inbound.exblog.jp/24040032/)の中で、ベトナムからの観光客が増えていること、しかし、ホテルなどでのwi-fi という問題点を指摘している。

ホテルでは特に困ったことはありません。クレームもほとんどないです。ただし、ベトナムではどんなに小さいカフェでも、家庭でもWiFiが当たり前のように普及しています。そのため、wi-fiがないホテルに泊まると驚かれます。こういう点に関しては、あらかじめ日本の遅れているところとしてご理解いただくようにしています」。

東京都では、都営地下鉄のwi-fi 利用を進めるようである。駅の構内はすでに導入済みであるが、今後は車内でも使えるようにするとのことである。また、都心以外を訪れる外国人観光客のために、小笠原などの島嶼部でのwi-fi の整備である。また、奥多摩町のJR各駅なども導入予定である。(日経2016/01/27記事より)

トイレの洋式化であるが、これも進めるべきである。自分は今60代の半ばの年齢であるが、ながらく和式のトイレになれていた。初めて外国に行ったときに、洋式のトイレでは便座に座るのが気持ち悪かった。つまり、他人が触れた便座に自分が触れるのがいやだったのである。しかし、それもかなり慣れた。今時の子どもたちは、和式のトイレがかえって使えないであろう。また、自分自身も加齢によって洋式トイレの方が負担が少なくて楽なことに気づくようになってきた。

wi-fi と洋式トイレが世界標準になっている。多言語の標識も必要だが、さらにプラスアルファのさまざまな施策が必要になってきたようだ。

外国人観光客への言語サービスについて

2016-05-01

先日、外国人観光客への掲示などの問題点を考えてみた。さらに付け加えてみたい。

(1)掲示物の英語のスペルをアメリカ英語にするか、イギリス英語にするかの問題がある。たとえば、アメリカ英語の Elevator はイギリス英語圏ではLiftである。今の日本で100%の掲示がelevator を用いていると思うが、それでいいのか。イギリスの旧植民地であったオーストラリア、ニュージランド、マレーシア、シンガポール、インド、香港からの多くの観光客のことを考えると、elevator/lift の併記が望ましいようにも思える。公平さという視点から問題はないか。このあたり、できるだけ文字を大きくするために文字数を制限したいという条件とどう折り合いをつけるか。

(2)今日は三十三間堂に行ってきてパンフレットと入場券をもらった。下の画像に注目のこと。入場券の裏には注意書きが日本語であり、その右がピクトグラムが印刷してあった。わかりやすいのだが、この表記が普遍性があるのかどうか知りたいと思った。つまり他国で使われるピクトグラムは異なるのか。あるいは世界ピクトグラム協会なる組織があって、それらの統一性を図っているのかどうか知りたいと思った。

(3)パンフレットの言語は日本語、英語、中国語、ハングルである。気づく点はこの4言語の情報量が同じであることだ。以前はよく日本語の情報量が多くて、他の言語は申し訳程度に添えられていたが、情報量でも各言語が同じ分量になってきている。これは注目すべきことである。

(4)パンフレットの日本語には幾つかの語にはふりがなが付いている。優しい日本語という観点からは、これはできたら全てふりがなを、そして難解な表現は優しくできないか。文は短くする。複文や重文は避けて、単文を並べるという形にしてほしい。

右側にピクトグラムがある。
右側にピクトグラムがある。

多言語サービスの諸問題

2016-04-30

多言語サービスを行う場合には、幾つかの問題がある。ここで思いつくままに幾つか挙げてみる。

(1)英語の表記であるが、パンフレットやウェブサイトなどでは、ネイティブスピーカーだけを対象にするのではなくて、英語を第二言語、外国語とする旅行者が多くいるので、「やさしい英語」を使うようにしたらどうか。

(2)アナウンスはアメリカ英語での発音であるが、もっと中立的な英語発音を使ったらどうか。調査によれば、アメリカ英語よりもゆっくり話す中立的な英語発音が一番分かりやすいという結果が報告されている。

(3)訪問観光客の多くは、非英語圏からの訪問者であるだろうから、英語以外の言語での言語サービスも必要である。中国語、韓国語、タイ語、スペイン語、ポルトガル語、ヒンディー語などの言語サービスも考慮すべきであろう。掲示やパンフレットをこれらの言語すべてで行うのは非現実的であるが、ウェブでの多言語表示ならば、比較的廉価に行うことが可能だ。

(4)中国語の表記であるが、簡体字と繁体字がある。両方とも表記するのはスペースを取るので、どちらで表記するか。中国と台湾・香港と文字が異なるのであるが、観光客向けに最も分かりやすい言語サービスはどうなのか。

(5)海外で日本語を学んでいる外国人観光客、日本に移住してきたばかりで日本語がまだ十分に理解できない人のために、「やさしい日本語」を用いるようにしてはどうか。これはたくさんのすぐれた研究がすでに存在する。

(6)考えたくないことであるが、大災害やテロが起こったときに、これらの多数の外国人観光客をどのように誘導するか、そのことも想定しておいて、多言語サービスを充実させておく必要がある。

(7)ピクトグラムは普遍的な意味を持っていると考えられる。日本で使うピクトグラムが他国のピクトグラムと同じか異なるか検証する必要がある。(ピクトグラムの中には意匠登録してあるものがあるとすれば、使用料を払う必要があるのか?)

(8)ローマ字表記であるが、ヘボン式か内閣式か、あるいは「にほんばし」の表記をNihonbashi / Nihombashi にするかのように統一的に決める必要がある。

(9)各自治体が別々に行うのはコストがかかるので、テンプレートを定めておいて、空欄に数字や固有名詞を入れるだけでウエブサイトやパンフレットができるのではないか。これらは寺社や博物館や公園などにも当てはまると思う。

(10)多くの人がiPad, iPhone を持っている。これらを活用して、翻訳サービスや地図案内サービスの提供が行われている。これらがあと4年で、さらに発展することが予想される。

 

 

言語サービスと観光

2016-04-21

先日(18日)、非常勤先の学校でゼミの学生の卒論の準備状況の報告を受けた。この話は別のブログですでに書いたのだが、ここでもその話を紹介してさらにいくつか新しい情報を加筆したい。

学生は京都市内、とくに右京区の寺社が外国人観光客がどのような言語サービスを提供しているか調査して、その言語サービスの妥当性と問題点を考察する、という内容の論文を書いている。

学生は先週の金曜日に、広隆寺、松尾大社、天竜寺を訪問して、そのパンフレットを集め、境内の掲示板の写真を撮り、またホームページをダウンロードした。

そして、多言語による言語サービスの存在をまず調べたのだ。パンフレットだが、広隆寺と天竜寺は日本語と英語さらに中国語とハングルで書かれていた。しかし、松尾大社はパンフレットはない。松尾大社は入場料を取らない。それ故に、対価として渡すパンフレットが存在しないのだ。

また、境内の標識はそれぞれに日本語と英語の標識があったそうだ。ホームページは、広隆寺のものは存在しない。松尾大社と天竜寺のホームページは存在して、それをプリントアウトしていた。学生は英語版だけを持参してきた。

注目すべき点は、それぞれが中国語の掲示やパンフレットをも掲載しているのだが、どうも繁体字の中国語で書かれたものばかりである。どうしてか?大陸中国からの訪問客も多いだろうが、なぜ簡体字の中国語が見当たらないのか。

一応、考えたことは、台湾からの訪問者が圧倒的に多くて、比較すると大陸中国からの訪問者の数は無視できるほどである(そんなことあるかな?)。あるいは、簡体字が読める人は繁体字が読めるが、繁体字を読む人は簡体字を読むことが難しい(これまた、そんな話はきいたことがないな)。


別の話になるが、政府は観光客を増やすために、よりいっそうの努力をするようだ。4月20日配信の時事通信によれば外国人観光客の数は大いに増えそうである。

初の2000万人突破=15年度訪日客、45%増

日本政府観光局が20日発表した訪日外国人数(推計値)によると、2015年度は前年度比45.6%増の2135万9000人で、2000万人の大台を初めて突破した。アジア諸国を中心とした「訪日ブーム」が影響した。15年暦年では1974万人とわずかながら届かなかった。

 政府は東京五輪・パラリンピックが開催される20年の訪日外国人数の目標として、2000万人を掲げてきたが、現在は2倍の4000万人に引き上げている。

 為替の円安や訪日ビザ(査証)の発給要件の緩和のほか、格安航空会社(LCC)を中心としたアジアでの国際航空路線の拡充も寄与した。 

4000万人に増やすという目標だ。フランスでさえも、8000万人である。フランスは陸続きでたくさんの観光客が訪れる。島国である日本にそんなに多くの観光客が訪れるのか、現実にインフラが追いつくのか。膨大な数のホテル、観光業の従事者が必要である。

もしも(これは想像したくないが)、熊本の地震クラスの災害がその時に東京を襲ったら。政府はそんな時のことも考えて対策をしておくべきであろう。