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未婚の女性の敬称は Ms である。昔は、既婚の女性はMrs 未婚の女性はMiss であった。しかし、女性を既婚と未婚で区別するのはおかしいと言うことで、両方に使える敬称として Ms が提案されて、この表現が広く行き渡っている。
歴史的には、1970年頃から積極的にその使用が推奨され始めた。1973年に、国連において女性に対する正式な敬称としてMsが採用されたそうである。私自身の学生時代(1960-1970年)は Mrs./Miss の使い分けを学んだだけで、Ms という敬称については教わらなかった。ところが、1986年にアメリカ英語を教えるある会話学校に会話の訓練に通ったら、その学校では女性は Ms という敬称と使うようにと教えていた。
他国でも似たような状況である。マドモワゼルという語を考えてみよう。フランス語の mademoiselle は最近は使わない。この語は ma + demoiselle と分解できる。ma は英語のmy であり、demoiselle は英語のgirl の意味である。マドモアゼルは女性が父親の管理下であることを表す言葉だと女性団体から是正を求められていた。2012年2月にフランスの首相(François Fillon)が公文書での使用を廃止を提案して、同年の12月に議会で承認された。それにより、フランスの公文書においては、既婚か未婚を問わず女性を示すのは、単数形(madame)、複数形(mesdames)の敬称に統一されたのである。
ドイツでも、未婚の女性を示す語は Fräulein であった。1960年頃からこの語の使用に疑問がだされるようになり、1970-1980年代では、公式文書や都会では使用が稀になってきたが、地方ではまだ盛んに使われた。しかし、現代ではきわめて稀になった。現在では既婚か未婚にかかわらず女性は Frau を使うようになってきている(複数だと Frauenだ)。
このような世界の動向を見ていくと、日本で若い女性向けの雑誌のタイトルに、「ミス、マドモアゼル、フロイライン」などと付けるのは問題になりそうだ。