『多言語なニッポン』


柿原武史先生(関西学院大学、教授)、岡本能里子先生(東京国際大学、教授)、臼山利信先生(筑波大学、教授)から、今月出版されたばかりの『今そこにある多言語なニッポン』(くろしお出版)をご恵贈いただいたので、ここに感想を述べながら紹介をしたい。

まず、タイトルであるが、「多言語な~」とあって、普通は『多言語な」という連体詞は使われない。「ニッポン」も通常は「日本」という漢字が使われる。この一風変わった日本語の使い方は、「今の日本の言語状況は従来とは異なるのだ、伝統的な日本語を使ったのでは表現できないのだ」というメッセージを最初から読者に与えてくれる。そのために、読者はこれから何が述べられるのか、とドキドキしてしまう。

本の語り口であるが、ですます調を使ってある。現在の日本、多言語化が進んでいる日本を、筆者たちが実際に見てきた事実をもとに、淡々と語るというスタイルをとっている。多言語化しつつある日本の現状にまだ無自覚的である多くの読者たちに警鐘を鳴らしたいのだが、大げさに騒ぎ立てるというのではなくて、筆者たちの見聞きした事実を淡々と語るというスタイルを取ってある。私には、このスタイルで語られた方が耳にすんなりと入ってくるが、多くの読者も同様であろう。

この本は、165ページであって、ゆっくり読んでも一日で読み上げることができる。9章があって、各章が平均して15ページぐらいだ。順不同で自分が読んでいく中で、メモを取った個所を断片的に述べてゆく。

触手話というコミュニケーション方法があること。
阿佐ヶ谷(現在は荻窪)に、ネパール人学校があったこと。
コプト正教会が京都にあること。
ラインのスタンプを利用して言語教育ができること。
「外国語」という表現を使わないで、「異言語」という表現をすること。
Google 翻訳サービスの精度があがり、人手による翻訳に近づいていること。
「やさしい日本語」を各自治体が興味を示していること。

上記のことなど、自分のよく知らないことなので、勉強になった。

今度の要望としては、絵文字に関する章を改訂版に入れてほしいとおもう。さらには、現在進行形ですすんでいるコロナ感染であるが、「コロナは外国人がもたらす」という認識が生まれ、グローバル化へ進もうとする我々の意識にかなりの影響(悪影響とも言えよう)を与えた。そのあたりに関する章が改訂版に加わると面白いと思う。

なお、この本は、出版社はくろしお出版であり、編者は、柿原武史、上村圭介、長谷川由起子の3先生であり、そのほかの執筆者は臼山利信、岡本能里子、榮谷温子、芹川京次竜、森住衛の先生方である。それぞれがご自身の専門性を生かして充実した内容となっている。値段は1600円とお買い得な値段になっている。

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2019年科研費合同研究集会のご案内


科学研究費に基づいて研究している複数のプロジェクトがその成果を共有しようということで、12月15日に早稲田大学で合同研究集会を行う予定です。詳細は以下の通りです。


名称:2019科研費合同研究集会@早稲田大学
日時:2019年12月12月15日日曜日
場所:早稲田大学(早稲田キャンパス)8号館3階303/304/305会議室

プログラム【2019年11月26日現在】







 















10:00-10:30 会場設営・開場・受付
10:30-12:00 研究発表

10:30-11:00 employability関連のインタビューについて
鍋井理沙(東海大学)
11:00-11:30 プライミングと英語学習
森下美和(神戸学院大学)・原田康也(早稲田大学)
11:30-12:00 学習者対話データ収集用録音・録画機材の比較検討:ハードディスクレコーダ・ハンディカム+ブルートゥースワイヤレスマイク・アクションカメラ・全天周カメラ+360度マイク
原田康也(早稲田大学)
12:00-12:45 科研費関係者打ち合わせ・昼食
12:45-15:00 研究発表

12:45-13:30 関係代名詞節の翻訳における連体・連用の選択性
佐良木昌(明治大学)
13:30-14:15 従属接続節形成の胚たる関係節について
佐良木昌(明治大学)
14:15-15:00 地方大学における「観光英語」の授業のあり方
河原俊昭(岐阜女子大学)
15:00-15:15 休憩時間
15:15-16:50 研究発表

15:15-15:45 日光における言語景観の変容:文化と想像力
平松裕子(中央大学)・森下美和(神戸学院大学)・原田康也(早稲田大学)・佐良木昌(明治大学)
15:45-16:15 日光アプリの評価
傅翔・伊藤篤(宇都宮大学)
16:15-16:45 ヘルスツーリズム
吉村・伊藤篤(宇都宮大学)
16:45-16:50 研究集会閉会の挨拶:原田康也(早稲田大学・情報教育研究所・所長)
16:50-17:10 会場整理・撤収

研究集会に関しての詳細は次の情報をご覧ください。

会告
名称:2019科研費合同研究集会@早稲田大学
日程:2019年12月15日日曜日
会場:早稲田大学早稲田キャンパス8号館3階303/304/305会議室
住所:東京都新宿区西早稲田1-6-1
参加費:無料


主催:早稲田大学情報教育研究所・早稲田大学言語情報研究所

共催
日本英語教育学会
http://www.decode.waseda.ac.jp/jeles/index-j.html
日本教育言語学会
http://www.decode.waseda.ac.jp/eduling/index-j.html
日本ビジネスコミュニケーション学会
http://www.decode.waseda.ac.jp/abcj/index-j.html


企画
科研費基盤研究(B)・課題番号:15H03226
研究題目:日本人英語学習者のインタラクション(相互行為)を通じた自律的相互学習プロセス解明
研究代表者:原田康也(早稲田大学)
科研費基盤研究(B)・課題番号:17H02249
研究題目:ICTによる観光資源開発支援:心理学的効果を応用した期待感向上
研究代表者:伊藤篤(宇都宮大学)
科研費基盤研究(C)・課題番号:16K02946
研究題目:英語コミュニケーションにおける統語的プライミングを利用した統語処理の自動化促進
研究代表者:森下美和(神戸学院大学)
科研費基盤研究(C)・課題番号:17K02987
研究題目:高度翻訳知識に基づく高品質言語サービスの研究
研究代表者:佐良木昌(明治大学)
科研費基盤研究(C)・課題番号18K00846
研究題目:雇用現場で求められる実用的英語スピーキング能力とは何か?:探索的研究
研究代表者:鍋井理沙(東海大学)
科研費基盤研究(C)・課題番号:18K11849
研究題目:ネット社会におけるインバウンド観光客・定住者を意識した文化伝達の言語表現
研究代表者:平松裕子(中央大学)


参加・発表申し込み
フォーム:https://forms.gle/F6P8rSE91o54vda36
上記フォームから参加者情報等をお知らせください。
発表者・連名者も、発表申し込みとは別途、参加申し込みをお願いします。


お知らせ・注意事項・お願い【2019年11月20日現在】
プログラムは現在も調整・修正中です。当日まで予告なく変更される場合があります。
会場案内:早稲田キャンパスへのアクセスにつきましては、以下の地図等をご参照ください。
http://www.waseda.jp/top/access
http://www.waseda.jp/top/access/waseda-campus
Google maps http://maps.google.co.jp/ にて【新宿区西早稲田1-6-1】を検索
Google maps: 早稲田駅から8号館まで


2019年12月15日(日曜日)は8号館が閉館となる可能性があります。閉館となっている場合は、南門からキャンパスに入ってすぐ左手の8号館のガラスの自動ドアの右手にガラスの引き戸がありますので、こちらから入館して、守衛に8号館3階会議室で開催の日研究会に参加する旨をお伝えください。
本研究集会は【子育て支援モード】で開催します。託児室などの用意はできませんが、乳幼児連れでの参加者・発表者を温かく迎え、見守るという方針にご理解・ご賛同いただければ幸いです。
気象状況・交通機関運行状況の影響なども含め、本研究集会の開催ならびにプログラムの詳細については予期せぬ変更の可能性が考えられます。

「外国人集住都市の言語問題」を『日本語学』に発表した。

明治書院の『日本語学 2018年8月号』は、「都市とことば」という内容で特集が組まれた。私も声を掛けてもらって、「外国人集住都市の言語問題」というタイトルで執筆した。この論文の副題は「日本語で格差を生み出さないために」である。

論文の概要は、「ニューカマー」と呼ばれる外国人労働者が外国人集住都市を中心に集まっている実態を報告したものである。好むと好まざるとにかかわらず、高齢化社会にむかう日本は、外国人労働者の受入数を増やすことになる。それは、日本社会が多言語・多文化・多民族社会を迎えることである。問題点として言語問題が生じるだろう事である。つまり、日本語を理解できない外国人の存在なのだ。

そのことはやがては、日本語能力の差で格差が生じるのではないか、その格差を生み出さないようにするには、どうしたらいいのか、などを述べている。とにかく、詳しい内容は、この雑誌を購入してもらえればと思う。

日本語学の表紙

2015年に定年退職して、現在は岐阜県の大学で特任教授として働いている。定年退職したことで、自分自身の中でこれまで研究したことに一区切りが付いたかなという気持であったが、この度、執筆に声を掛けていただき出版社には感謝している。このテーマは自分がこれからも追求していくつもりであり、成果はこのブログで発表していこうと考えている。

訪日外国人旅行者数(観光庁)

日本にいる外国人の数が増えているといわれている。たしかに、我々の身近でも外国人の数を見かけることが多くなった。具体的に、どのような数字になっているのか、どこの国の人が多いのか知りたいと思う。

訪日外国人旅行者

観光庁は、訪日外国人旅行者数に関する統計を出している。今は2018年の4月だから、2017年はどうなったのか知りたいところだが、観光庁のサイトを見ていると、2016年までの数字しかない。統計の処理にかなり時間がかかるようだ。確定値は2016年までのようだ。観光庁からのグラフをスクリーンショットしたので、下に貼り付けておく。

 

2016年は2,404人の外国人が日本を訪問している。しかし、これは延べ人数である。外国人が1年に数回訪問すると、そのたびにカウントされる。海外に行く外国人よりも、日本を訪れる外国人の数の方が上回るようになった。

2017年に関しては推計値と、それから数か月遅れて暫定値がでるが、それしか、まだ公刊されていない。その暫定値によれば、以下のようになっている。総数が287万人だ。その内訳はアジアがほとんどで、上位の4カ国は、中国(734万人)、韓国(714万人)、台湾(456万人)、香港(223万人)であり、その他の国は、アメリカ(137万人)である。やはりアジアからの旅行者が多い。

訪日外国人旅行者の定義であるが、入国カードの中から、滞在が三ヶ月以下の人をカウントしていると想像する。

在留外国人数との関係

在留外国人統計が法務省(入国管理局)から発表されている。在留外国人統計は、先日の自分の記事でも報告していたが、現在は247万人である。在留外国人とは日本に3か月以上滞在する外国人が対象である。

両者の関係は、滞在が3か月以下ならば、フローの面から見てゆく。つまり出入りをカウントする。滞在が3か月以上ならば、ストックの面から、つまり現時点で何人いるのかをカウントしているのである。

この両者の数字を見ることで、現時点での外国人の数についてある程度の予想がつく。

言語的な問題

どちらの統計も英語圏以外の人の数の方が多い。しかし、一般的には、外国人の増加=グローバル化=英語化という風に捉えられることが多い。たしかに、若い旅行者の多くはある程度の英語力を持っているので、英語でのコミュニケーションが役立つことが多い。

ただ、日本に在留する外国人の場合は、コミュニケーション言語は日本語であるので、どのような日本語をどのように教えるのか、どのように言語サービスを提供したらいいのかという問題になってくる。

のぞみ教室を訪問した。

はじめに

美濃加茂市にある外国人児童のための日本語教室である「のぞみ教室」を訪問した。

実は、のぞみ教室は1年ほど前に訪問したことがあり、その時の報告をこのブログの記事「美濃加茂市を再度訪問する」に投稿してある。その時の訪問は科研費による研究の一環であったので、報告書としてもまとめて、「美濃加茂市市民課と国際教室訪問の報告」として、これまた、このサイトに投稿してある。よろしかったら、そちらも参照していただきたい。

今回の訪問は、その後の変化の状況を知りたいと思い、教室の先生がたが忙しいのを承知の上で頼み込んだものである。許可いただいた市の教育委員会の方とのぞみ教室の講師の方々にはお礼を述べたい。以下、概要を述べたい。

のぞみ教室にコンタクトを取る。

前回は同僚の方にコンタクトをとっていただいたのだが、今回は私が直接コンタクトをとって、訪問の許可を頂くことになった。のぞみ教室は美濃加茂市の古井(こび)小学校の敷地内にあるので、小学校に電話して訪問の許可をいただこうとした。しかし、のぞみ教室は美濃加茂市の教育委員会の管轄にあるとのこと、たまたま敷地は小学校の中にあるのだが、許可をいただこうとするならば、教育委員会に連絡をするべき、と案内された。

教育委員会に連絡を入れると担当のKさんから訪問の許可をいただいた。さらにはKさんはのぞみ教室に、当日は先にゆき、私を待っていてくれる、ということであった。ここでKさんとしたが、本当は実名を記しても問題ないと思うのだが、とにかく最近は個人情報の管理がうるさく言われているので、Kさんと記しておく。Kさんと相談の上で、3月15日に訪問することが可能になった。

のぞみ教室を訪問する。

この日は小学校は卒業式のようで保護者の車が多いようであったが、何とか駐車するスペースを見つけた。Kさんはすでにいらしていて、駐車スペースまで誘導して貰った。

教室内でF先生に挨拶をした。F先生は日系ブラジル人で、ボルトガル語を母語とするが、日本語も堪能であり、国際教室のまとめ役としては最適の方であった。

先生方は、コーディネイターの方二人がまとめ役であり、あと10名ほどの講師が臨時職員として教えられている。講師の方々の言語能力は、だいたい2、3言語を話される方々であった。

教室内はそんなに広くはない。職員室が一つ、大教室が一つ、小教室が一つと合計3つの部屋に分かれている。

この教室は訪問者が多いので、子どもたちの親御さんからには、あらかじめその子との説明をして、撮影の許可をいただいてあるそうだ。ここでは、ただ、できるだけ子どもたちは後ろ向き、せいぜい横顔を撮影するように試みた。ただ、全員がそうなっているとは限らないのだが。

大教室で各先生方が教えられている。
一斉授業
一斉授業で教えられている。
のぞみ教室
小教室、主に低学年用の教室だ。

私が入った時は、グループ別の指導であった。それから一斉授業になった。グループ別になったり、一斉になったりと、最も効率が良い指導法が試みられている。

この教室は平成17年に前身のエスぺランザが出来上がり、それが平成19年に現在ののぞみ教室になった。

この子どもたちであるが、だいたい6ヶ月から3ヶ月ほど滞在する。6ヶ月以上いても日本語の能力は頭打ちになるので、それならば、普通教室に入って一般の日本人の児童と一緒に勉強したほうがはるかに伸びるそうだ。

子ども達のバックグラウンド

子ども達であるが、現時点では29名である。主にブラジルとフィリピン国籍の子どもが多いそうだ。一時は日系ブラジル人の数が非常に多かったが、リーマン不況や本国の好景気のために、数が減ったそうだ。でも、最近また増えているそうである。特徴としては、日本に定住を希望する人が増えていて、その分日本語の習得に気合いが入っているそうである。

フィリピン人の子どもさんは、ブラジル人の子どもさんほど熱心ではないそうだ。フィリピンの場合は本国とのつながりがまだ強くて、心が母国の方に向いている点が理由の一つだ、との説明であった。

中国人の子どもさんは一人だけで、この地域ではそんなに多くはないとのことだ。

将来は、ベトナムからの子どもさんが増えそうだと予想されるそうた。現状ではまだ一人もいないが、今後は増えそうだとの説明があった。

教室の移転

こののぞみ教室だが、現在の教室は、環境があまり良くない。昔の体育の物置を改良したものである。天井は音の反射が強くて、子どもたちの音声が互いに聞こえて集中しづらいそうだ。

天井は倉庫用にできている。

現在、30メートルほど離れた敷地に建物建設の準備が進められている。秋頃には、完成するそうだ。その時は、冷暖房が完備して各部屋は音が漏れることも少なくなるようだ。

おわりに

そんなことで、午前と午後の2回に渡って訪問をした。日本に増えつつある外国人児童の日本語問題に取り組んでいる最前線を見せて貰った感じがする。

多忙にもかかわらず、対応していただいた美濃加茂市の教育委員会のKさんとのぞみ教室のF先生には厚く御礼を申し上げたい。

佐藤和之教授(弘前大学)よりメールをいただく。


3月11日は7年前に大地震が起こった日である。この日は数万人の人々の命が失われた日として我らの記憶の中に残しておかなければならない。

本日、やさしい日本語の開発に携わっている佐藤和之先生からメールをいただいた。それを紹介すると共に震災の犠牲者の人たちのご冥福を祈りたいと思う。

研究者の皆様
 このメイルは、「やさしい日本語」に理解を示してくださる研究者の皆さんへ、Bccでお届けしています。

 東日本大震災からまる7年に際しての減災のための「やさしい日本語」資源公開のお知らせとお願い

ご挨拶と御礼
 弘前大学の社会言語学研究室です。この11日で東日本大震災からまる7年になります。被災地の皆さまに改めてお見舞い申し上げます。研究室の教員とゼミ生一同は、東北にある大学として被災地の復興を願い、これからも被災地や「やさしい日本語」で住民支援をしていくとする皆さんの手伝いをしていく確認をしました。
 さて、研究室では本年も「やさしい日本語」資源を公開しましたので、お知らせします。

3月11日に公開した新たな「やさしい日本語」資源
『「やさしい日本語」で表現するカタカナ外来語・アルファベット単位記号用語辞典(カテゴリー㈵対応)』

 カタカナ外来語(以下カタカナ語)やアルファベット単位記号(Wi-Fiなどの略称含む)は、日本語にとってなくてはならないことばです。これらは、自然な日本語として活用されているため、災害時にも多く使われます。日本語として規範的な新聞記事でも「ニーズ」や「コミュニティー」「m(メートル)」「Wi-Fi(ワイファイ)」といったカタカナ外来語やアルファベット単位記号を使っています。
 一方「やさしい日本語」で外国人に情報を伝えようとすると、カタカナ語の言いかえが必要かどうかの判断や言いかえが必要なときにはその表現を考えなければならないなど、一分、一秒を争う災害時でも、カタカナ語の扱いに時間をとられたり、言いかえの表現が思いつかないため、そのまま外国人に通じないカタカナ語を使ってしまうということがありました。ライフライン(級外)が典型ですが、原語と意味が違っていますのでlife lineを母語、あるいは生活語とする外国人にとって難解なだけで無く、誤解されてしまう危険もありました。

 そこで研究室では、災害発生から72時間に必要となるカタカナ語を「やさしい日本語」として使えるかどうか判断し、もし使えないときはどう表現するのが良いのかを例示した用語辞典を作りました。「やさしい日本語」を使って被災外国人の支援をしようとする行政職員やボランティア団体の皆さんが活用することで、災害下でもより早く、正確な「やさしい日本語」での情報伝達が可能になりました。

いつ、どういう方法で公表したのか
 公表物は、3月11日(日)の午後2時46分(東日本大震災の発生時刻です)に、社会言語学研究室のホームページで公開しました。研究室のホームページアドレスは以下の通りです。検索エンジンをお使いのときは「弘前大学 やさしい日本語」とご入力ください。
http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/

お願いがあります
 災害時の言語支援を私たちの力だけでするには限界があります。本日、ご案内を差し上げました研究者の皆さんには、「やさしい日本語」で情報を伝える意義をご理解いただき、おそば近くの自治体やNPOの皆さんと一緒に考える機会や時間を作っていただけましたら嬉しく思います。そのとき、本日のような資料が用意されていることにも触れていただけましたら幸いです。
 阪神・淡路大震災から始められた、災害時の外国人に「やさしい日本語」で災害情報を伝える研究は24年目になります。社会言語学研究室は、阪神淡路大震災や新潟県中越地震、東日本大震災での言語的経験を風化させることなく未来につないでいくつもりです。 お力添えを宜しくお願いいたします。

    2018年3月11日

                    〒036-8560 青森県弘前市文京町1
                  弘前大学人文社会科学部社会言語学研究室
                              ゼミ生一同
                             教 授 佐藤 和之
kokugo[a]hirosaki-u.ac.jp(ゼミ生専用)

あの地震は7年前の話になってきた。いつかは風化するかもしれないが、できるだけ私たちの記憶の色褪せない箇所にしまっておこう。

科研の会議が京都テルサで行われた。


9月22日の午後3時半から、京都テルサ(京都府民交流プラザ)で科研の拡大会議が行われた。この科研グループの研究の題目は、「高度翻訳知識に基づく高品質言語サービスの研究」である。研究代表者は佐良木昌先生(明治大学・研究推進員)であり、分担者として阪井和男先生(明治大学・教授)と私(河原俊昭、岐阜女子大学:特任教授)である。連携者として、他に3名の研究者の方々が登録されている。

今回はこの科研のメンバーの人に限らず、研究会「思考と言語」のメンバーも含めて10名以上の参加になった。初めに、研究代表者の佐良木先生から挨拶があり、同氏による研究発表があった。発表の題目は、「高度翻訳知識に基づく高品質翻訳サービスの研究」であった。

興味深い点として、collocations の条件として、語と語の結合の強度に従って free combinations – collocations – similes – idioms といくつかのステージを想定していることだ。その強度を測定する規準として、頻度、共起制限、意味の特殊化があるそうだ。私見だが、翻訳をしようとする場合、free combinations では構文分析から入ってゆく。idioms になると一対一対応で翻訳が行われる。問題はこの両者の中間に位置するcollocations の訳し方だ。idiom ほど固定化されていない。しかし、ある程度の自由度がある。これは翻訳を行おうとする場合は、両者の狭間にあるのであり、かなり厄介だなと感じた。

次は河原の発表で、「観光英語を中心とした高品質な言語サービスの研究」というタイトルであった。内容は、日英語翻訳の場合、直接翻訳を行うとするとかなり難しいので、それぞれをいったん、Easy Japanese, Easy English に組み直して、Easy Japanese – Easy English どうしの翻訳にした方が、つまり、プロトタイプ同士の翻訳にした方がスムーズになるのではという問題提起であった。

そして、阪井和男先生の「コミュニケーションの創発とサービス創新についての研究」であった。阪井先生は明治大学のサービス創新研究所の所長である。創発と創新という概念はかなり目新しいものである。今度機会があれば、じっくりとこの二つのあたらしい「概念」についてお聞きしたい。

テルサ建物
宮崎先生の発表

そして、宮崎正弘先生(新潟大学名誉教授、株式会社ラングテック社長)より、「和文単文の英訳指向書き換えー日英単文翻訳の高度化を目指してー」という発表であった。翻訳の技術の日本における歴史やその問題点などを詳しく説明された。go blind, go mad のようなイディオム的な語の翻訳も一対一対応での翻訳ではなくて、できるだけ意味的な情報、例えば、「go + 形容詞の場合はネガティブな意味合いを含む」等の情報を翻訳システムには入れていきたいとのことであった。

その他、いろいろと興味深い発表はあったが、割愛させていただく。