電子書籍の時代 2013-01-19
これまでの人類の知的生活を支えてきたのは書籍である。長い間、人間は知識とは書籍から学ぶもの、そして書籍とは紙であるというイメージをいだいていた。しかし、現在それが大きく変わろうとしている。電子書籍が登場して、利便性・廉価性などで紙の書籍を上回るようになった。これは人類の知的活動に決定的な変化をもたらすことは間違いない。
私は、最近巷の評判を聞いてkindleという端末を購入してみた。そしたら、その日からkindleの魅力に圧倒された。まさしく評判通りに素晴らしい端末であった。もう、紙の書籍には戻れない気がする。私自身の経験から、利点をいくつか挙げてみる。
(1)収納の空間を取らない。5000冊までの本が収容できる。この膨大な数の本を常に手元に置くことができる。これだけになると一生かかって読み切れるかどうか。
(2)外国語の本を容易に読むことができる。英語の本を読んでいて、ある単語の意味が分からなければ、画面上でその語を指で押すと、日本語の意味が画面に現れる。フランス語やドイツ語の文でも、同じである。
(3)検索が簡単にできる。例えば、interestingという単語を打ち込んで検索すると、端末に入れてある本すべての中からその語を拾い上げて、即座に一覧表にしてくれる。ある作家の使う特定の語や用法に関する基礎データが簡単に入手できる。
(4)書籍の購入代金が安い。多くが無料で入手できる。それらは古典が多い。夏目漱石の『こころ』、『吾輩は猫である』、『坊っちゃん』のような名作が無料である。英文学ならば、Maugham のThe Moon and Sixpence, Of Human Bondageとか、 Shakespeare のHamlet, Macbeth等が無料で入手できる。有料でも、Shakespeare全集が200円で購入できる。
(5)文字の大きさを調整できる。年を取ると細かい字を見ることがつらくなる。そんな人間にとって、文字を拡大できることはありがたい。明朝体、ブロック体のような字体や行間のスペースも選択できる。
(1)から(5)以外にもいくつか利点はある。今後は人文系の学問研究は、関連する書籍を何十冊かをダウンロードとして、常に参照しながら研究を深めていくということになろう。文学研究では、対象の作家の全集や、関連の注釈本や評論集を、端末にまとめてダウンロードしておけば、どこでも研究はできる。
今までは、首都圏に在住したり大きな大学に在籍している研究者は、大きな図書館や本屋街に容易にアクセスできるので、研究に有利であったが、今後はそのような点は無関係になるかもしれない。
これらのことを考えると、現代人は人間の知的生活の歴史の上での大きな転換期にいるのだと考えられる。インターネットが引き起こした知的革命は驚異的である。電子書籍もその革新の一つである。瞬時にして知の所有が可能になってしまう。非常にスリリングな時代に住んでいる私たちは是非ともこの恩恵をしっかりと享受したいと思う。