2002年に沼津の加藤学園を訪問しましたが、その時に、説明されたことを以下のようにまとめました。

加藤学園幼稚園では、1994年4月より画期的な英語イマージョンプログラムを始めました。これは、特色ある新しい分野のプログラムで、子どもたちが国際時代において、真の国際人となれるように考えられています。また、子どもたちは、このプログラムを通し第二言語能力を身につけ諸文化を理解できるようになるでしょう。

我々の地球は日々狭くなっており、英語は国際語となっています。“21世紀の国際社会での文盲とは、読み書きのできない人のことでなく、英語でコミュニケーションが出来ない人である。”とさえ言われています。これからは、英語でのコミュニケーション能力、他国の文化や習慣を知ることは、人間的にも、教育的にも、そして将来職業にたずさわる上でも大きなウエイトを占めてくるでしょう。このような世界で、子供達に十分な活躍の場を与えることが、我々のプログラムの大きなねらいです。

我々の使命は、To Ensure Success For All, Now and In The Coming Global Era.

すべての人々の、現在そして来るべき地球時代での成功を確実なものにすることです。

1.イマージョン教育(幼稚園・初等学校・中学校・高等学校で行われているイマージョン教育の概要説明)
「イマージョン教育とは?」
イマージョンとは第二言語習得プログラムの1つです。このプログラムでは第二言語を保育の目的として使うのではなく、手段として使います。保育のねらいはあくまで行われている活動そのもの(数・自然・社会・言葉・劇・絵や工作・音楽など)であり、言語ではありません。
イマージョンにもいろいろなタイプがあります。

《スタート時期による分類》
• ・アーリーイマージョン 幼稚園か1年生から始めます。
・ディレイドイマージョン  4年生以降に始めます。
・レイトイマージョン  中学か高校で始めます。

《第二言語の割合による分類》
• • ・トータルイマージョン  最初の段階では第二言語使用率100%、その後高校で50%となります。
・パーシャルイマージョン  幼稚園から高校を通じ授業の約50%を第二言語で行います。
どのタイプのイマージョンプログラムでも次のことが言われています。
• ・すべての指示は第二言語で行います。
・第二言語での指示は、すべて意味のある活動や状況と結び付けて行われます。
・最初、「沈黙期間」にはいります。この期間、第二言語の理解力はつき始めますが、まだ話すようにはなりません。
・この沈黙期間を過ぎると次第に話し始めます。
・言語習得活動中に見られる文法などの発達過程での誤りを、教師は訂正しません。
・パーシャルイマージョンでは、第二言語での読み書きは、聞いたり話したりした後に行います。また、普通、母語での読み書きの後で、第二言語での読み書きを行います。
・同じ内容を2つの言語で教えることはありません。もし、子供が第二言語でわからないことがでてきても、母語で復習することはしません。そうしてしまうと、子供は母語での指示を待つようになり、第二言語での指示に集中しなくなるからです。
・始めの1・2年間、子供はどちらの言語も使うことができます。しかし、先生はいつでも第二言語を使います。また、子供達ができるだけ第二言語を使えるように励まします。

「イマージョン教育の歴史」
•  現在、イマージョン教育で何百万人もの子供が第二・第三言語を習得しています。ヨーロッパ・アジア・アフリカの多くの学校では、子供達は家庭で使っている言語と全く違う言語を使って学習しています。
1965年、北アメリカ、カナダのケベックでイマージョン教育が始まりました。当時、自分達の子供が教室で習っているフランス語は、実際の生活では役に立たないと、それまでのフランス語教育に満足していない親たちがいました。彼らは、McGill大学の心理学者たちとともに、フランス語イマージョンプログラムを始めました。幼稚園にはいってきた子供に100%フランス語の環境を用意するこのプログラムは、今ではカナダ全土10州に広がっています。
70年代初め、UCLAの教授グループがカナダのモデルを使い、CaliforniaのCulver市で、スペイン語イマージョンプログラムを始めることに成功しました。これをきっかけに、アメリカでもイマージョンプログラムが広がりました。今では、200をこえる学校で、9言語のイマージョンプログラムが行われています。アメリカでは現在32000人ほどの子供がイマージョンプログラムで学んでいます。
現在、アメリカでは20以上の公立小学校で日本語イマージョンプログラムが行われています。そして、すべての学校で成功していると報告されています。

2.第二言語習得
•  イマージョン教育でもっとも一般的に支持されている理論は、Krashenの言語教育理論です。
彼は、第二言語の習得には、子供が歩いたり話したりすることを自然に覚えるように習得することが望ましいと提案しています。大人と子供では、第二言語習得の過程に違いがあります。
第二言語をコミュニケーションの手段として使うことにより獲得することを「言語習得」といいます。また、第二言語の規則性を知り、文法の知識を意識的に増やしていく方法を「言語学習」といいます。習得と学習の違いは以下の通りです。
言語習得 言語学習
• ・子供の第一言語習得と似ている
・言葉を自然に覚えること
・潜在的知識
・第二言語習得は母語習得に似ている ・言葉の体系的知識
・意識的、顕在的知識知識
・学習は体系的指導が役に立つ

Krashenは、言語習得と言語学習が明らかに違うことを指摘しています。言葉は教えるときの手段として使われるので、教材にとらわれず言葉を習得していきます。そして、子供達は母語を覚えるのと同じような自然な形や環境で、言葉の規則性も学ぶことができます。

自然な順序
文法構造はある程度順序だてて習得できます。あるものは、早い時期に習得できるし、反面遅い時期にしか理解できないものもあります。これには個人差があります。
一般例 「早い時期と遅い時期」
・早い時期に習得できるもの・・・・進行形(ing)や複数形
・遅い時期に習得できるもの・・・・三人称単数のS
母語及び第二言語の文法構造を習得するときは自然な順序を踏んでいきます。文法を意図的に教えられたときは、自然な順序で文法を獲得しません。会話中心の中では、文法を自然な順序で獲得していきます。
あまりにも文法にこだわりすぎると、不自然な文になってしまいます。しかし、子供のペーパーテストのチェックをするときには文法にこだわることも大切です。

理解可能なインプット
私達は、言葉を話したり聞いたりすることで物事を理解するのですが、どのようにして言葉を習得するのかという疑問が生じます。 子供達は、言葉を学習する以前にある程度意味のある活動、経験が必要です。なぜならば、話す能力と言うのは、直接的に教えることができないからです。そこで子供達に自然的でなおかつ無理のない学習システムを作る必要があります。
また、子供達が第二言語を習得するために、新しい単語と文の構造を知ることが大切です。また、視覚的作用を利用したりたくさん話す機会を作ることが大切です。そのためにも、子供達は第二言語を自由に使えるようになるまで、たくさんの第二言語にふれさせるということが必要なのです。

言語発達の段階
第二言語習得のステップは4つあります。子供達はその発達段階の応じて、それぞれ以下の4つのレベルに分けられます。
(1)ジェスチャーなどでコミュニケーションする
ただ聞いているだけの段階
(2)1つ2つの単語をしゃべれる状態
もう少し単語が増えてきた状態
(3)さらにもう少し長い文を言うことができる状態
単語がさらに増えた状態
(4)子供達が自分の意志を伝えることができる状態
さらにもっとたくさんのことが言えるようになった状態

3.早期英語学習の利点

では、第二言語を早い時期に習得するとどうして良いのでしょうか。以下にその理由をあげてみます。
1.知的成長を促すことができる。
2.精神的成長を促すことができる。
3.多種多様な考え方ができる。
4.母語についての理解が増す。
5.遅い時期のイマージョンに比べ、発音がネイティブに近くなる。
6.第二言語を知ることにより、いろいろな人と会話ができる。
7.いろいろな国の文化や生活習慣を知ることができる。
8.英語の試験でも大きな成果を発揮できる。
9.英語を知ることによって、たくさんの場所で働く機会に恵まれる。

4.第二言語習得のポイント

第二言語を学習することにおいて重要なこととして、Helena Anderson-CurtainとCarol Ann Pestahaは、彼らの本の中で幼児教育における、第二言語を教えるときのポイントを10あげています。
1.子供は母語をあまり使わないときの方が第二言語を早く習得します。
2.最初の段階においては、話すことよりも理解することの方 が大切であり、そのことによりあらゆる物事に対する見方が 豊富になります。
3.第二言語を教えるときには、社会性や文化面において特に 配慮をしなければならないし、またゲームや音楽性、工作、 スポーツなどの要求を取り入れて教えることが大切です。
4.また、具体的な経験をさせることが大切です。すなわち視覚に訴えるものや体を使って表現するというような経験が大切です。
5.子供にとって、たえず体を動かす身体表現が大切です。
6.子供にとってのレベルを考えて子供が興味を持つ活動をさせることが大切です。
7.子供にとって本や話しで外国の文化を知ることよりも実際にいろいろな体験を通して理解することの方が大切です。
8.それぞれの活動が密接に結びついていることが大切です。
9.それぞれの活動を通して、文法面を注意して教えるのではなく、実際の会話を中心に教えることが大切であり、文法構造を教えることは目的ではありません。
10.それぞれの活動が子供達の年齢や興味にあったものを選び、教材についても子供の発達段階に即したものを選ぶ必要があります。

5.イマージョン教育の成果

幼稚園から高校までのイマージョンプログラムの成果は以下の通りです。
子供達は第二言語をほぼ母語と同程度の聴き取り能力と読解力を獲得する一方、かなり高レベルのスピーキングとライティング能力を身につけます。
・子どもたちは、算数・理科、社会などの教科において母語で学習する子どもたちと同程度の力をつけます。
・他の国の文化や言葉に対して、進んで知ろうとする積極的が身に付きます。
・知能指数と言語習得能力は比例しません。外国語の読み書き能力は母語の読み書き能力とかなり相関関係がありますが、聴き取りと話す力はそれほど相関性は見られません。