美濃加茂市市民課と国際教室訪問の報告                  2016-11-26

1 はじめに

美濃加茂市は岐阜県の南にあり、近年の外国人住民の数の増加を受けて、多文化共生社会へと進みつつある。岐阜女子大学文化創造学部所属の河原俊昭と松家鮎美の二人は岐阜県における多文化共生社会の動向に関心があり、関連する資料の収集と各地で聞き取り調査を行っている。

両名は、岐阜県の中でも外国人の比率が高くて多文化共生社会への進展が最も進んでいる美濃加茂市を2016年の8月12日と11月1日の2回にわたり訪問した。市の担当者から主に教育に関する外国人児童生徒の問題とその対策などを聞き取り調査して、さらには国際教室「のぞみ教室」を授業参観した。

本稿では、これらの聞き取り調査を中心に同市が多文化共生社会の樹立に向けて邁進している姿を報告したいと思う。

 

2 美濃加茂市の概要

美濃加茂市は岐阜県の南部に位置して愛知県との県境にある。工場地帯であり、自動車や電機品の部品を生産して、中部地区の企業をはじめ各地に出荷している。

1989年の入管法の改正に伴い、日系ブラジル人の増加が始まった。この地帯は長年労働者不足に悩まされていたので、美濃加茂市の各工場でも労働不足を補うために、外国人労働者の雇用を開始した。

美濃加茂市において、1990年代後半から日系ブラジル人の増加は顕著になった。さらには、フィリピン人や中国人なども増加していった。地理的には、古井地区や太田地区を中心に増加し、その数は2000年代後半には当市の人口の1割を超えた。ただ、やや減ってきており、2017年2月3日現在の人口に占める外国人の数は4,419名で割合は約7.8%である。

2001年5月には、浜松市が中心となり、外国人集住都市会議が発足する。これはニューカマーと呼ばれる、ブラジルやペルーなどからの日系人を中心とした外国人市民が多数居住する都市の集まりである。そこでは、外国人住民に関わる施策や活動状況に関する情報交換のほか、各地域で顕在化しつつある様々な問題の解決に積極的に取り組んでいくことを目的としたのである。

美濃加茂市は、この「外国人集住都市会議」に県内の大垣市可児市とともに参加し、2007年度から2年間座長都市を務めた。そして、2008年度には、多文化共生社会の実現に向けた取り組みを推進する「みのかも宣言」が採択されている。

なお、大垣市と可児市は外国籍住民の数の減少もあって、外国人集住都市会議のメンバー都市からは退会している。そのために、現在、岐阜県では、美濃加茂市だけが、外国人集住都市会議に参加している。

 

3 一回目の訪問(2016年8月12日、多文化共生係りを訪問する)

美濃加茂市の市役所をお邪魔して多文化共生係りの方にインタビューをした。訪問したのは河原と松家の二人である。私どものインタビューにお答えいただいたのは、市民恊働部・地域振興課の課長補佐兼多文化共生係長の久保田氏と市民恊働部・地域振興課の国際交流員の大里氏であった。久保田氏は長年多文化共生社会実現に向けて努力されており、また大里氏は自らが日系ブラジル人であり、ご自身の体験に基づいていろいろな説明をいただいた。以下、聞き取ったことを記していく。

 

美濃加茂市は、工場も多く、そこで日系ブラジル人やフィリピン人などが働いている。現在は、人口の7.6%が外国籍である(2016年7月時点)。ただし、この数字は昔はもっと高く11.2%に達した時期があった。しかし、リーマンショックを契機として日系ブラジル人の職場が減り、さらには数年前にソニーの工場の閉鎖があり、本国に戻る日系ブラジル人が増えて、現在は7.6%ほどの数字に落ち着いたそうである。なお、日系ブラジル人の数が激減したのに対してフィリピン人の数は微増傾向にあるそうだ。

美濃加茂市では、そのほかに、中国人とベトナム人が数百名いるが、これらの外国人は研修生であり、年齢も若くて独身の人がほとんどである。この人々は研修が終わると本国に戻るという傾向である。この点は日系ブラジル人とフィリピン人が定住傾向を見せている点で大きな対比となっている。

美濃加茂市の古井(こい)地区は外国人の滞在する中心地であった。そこは、ソニーの工場があった(2013年まで、ソニーEMCS「美濃加茂サイト」があり、2,200名の雇用を生み出していた)関係で日系ブラジル人の方が多くて、太田地区はフィリピン人の方が多い、という傾向があるそうだ。

古井地区に日系ブラジル人の方が多い理由は、そこが日系ブラジル人向けのインフラが整っていることが理由に挙げらる。ブラジル人のための商店も多く、生活にするには便利になっている。要は、ブラジル人が多いという認識が高まると同国人が生活の利便性を求めてそこに集住してくる傾向がある。なお、訪問した市役所がある地域は太田地区になるとも教えてもらった。

年金は長い間懸案事項であった。今までは、日系ブラジル人は国民年金の支払いに積極的でなかった。いつ帰国するか分からないので、日本で払った分は掛け捨てになる可能性が高いからである。しかし、年金の支払いに関して、最近ブラジルと日本で社会保障協定が結ばれたのである。それにより、日本で納めた年金がブラジルに帰国後に納める年金と継続性が出てきたので、人々が年金を納めるようになってきた。なお、日本政府は外国人が納めた年金が掛け捨てにならないよう年金の相互協定を結ぶ国を増やしている。

同市での不就学の児童の全数は把握できていない。それは、ブラジル政府公認のブラジル人学校があるので、そちらに参加する子供たちもいるので、子供達が日本の学校かブラジル人学校のどちらを選択したのかは不明な場合があることが理由だ。

また、外国人の子供に対するプレスクールがあり、そこで子供たちは日本の学校のシステムを学ぶ。日本の学校には、遠足、運動会、給食、掃除、PTAなどがあるが、ブラジルにはないので、そのようなシステムを学ぶ慣れていく。

子供たちに対する取り出し授業で日本語を教える国際教室もある。それは、古井地区と太田地区の3つの小学校では、国際教室という形で子供たちに日本語の個別指導を行っている(二回目の訪問では、古井地区にある「のぞみ教室」を訪問した)。

高校へ進学するのは美濃加茂高校(定時制がある)や東濃高校などが多い。外国籍の子供たちの大学への進学状況は一番の難問は授業料という経済的な問題である。学生支援機構は奨学金を貸与しているが、独立採算制度になってからは、返済が確実に行われるかどうかが貸与をするかどうかの大きな判断基準になるそうだ。その場合は、日系ブラジル人の子供たちは不利な状況である。外国籍の中学生や高校生の進学の前に立ちはだかる大きな問題として経済的な問題がある。

なお、母語保持教育は美濃加茂市では行っていない(この点は私どもの調べた範囲でも行っている自治体は少なくて、この点は今後の課題になりそうである)。

 

4 二回目の訪問(2016年11月1日、美濃加茂市教育委員会を訪問する)

美濃加茂市の教育委員会を前回と同様に河原と松家で訪問した。日比野教育長と清水教育課長からお話を聞く。今度は外国籍の子供たちの教育について中心にお話をうかがった。また、そして、初期指導教室である「のぞみ教室」を見学させていただいた。その内容を報告する。8月12日の話と重なる部分もあるが、重要な点は再度記述した。

 

美濃加茂市は外国人集住都市会議に参加している。そして、2008年には「みのかも宣言」を出している。それは、多文化共生社会のあり方について、地方都市の進むべき方向を宣言したものである。その宣言はいくつかのインパクトを与えたのである。

美濃加茂市はソニーの工場があった関係で、日系ブラジル人がたくさん働いていた。しかし、2013年3月に、ソニーEMCS「美濃加茂サイト」は閉鎖となった。そのために多くの従業員が職を失った。跡地は千趣会の物流倉庫となったのである。しかし、物流倉庫では、ソニーの時ほどの数の雇用は不可能であった。そのために、数多くの従業員が美濃加茂市を離れざるを得なかった。ただ、市役所側が予想していたよりは、多くの日系ブラジル人の方が市内に残った。

その理由として、美濃加茂市は日系ブラジル人のコミュニティーがあって、彼らには住みやすいインフラストラクチャーが成立していたことが大きな要因のようだ。美濃加茂市を拠点として、ほかの工場に働きに行く人が多かった。

学校での外国籍の子ども達への日本語教育は現在も行われている。通常の教員だけでは足りない分は加配の先生方、あるいは支援員の方々から助けてもらっている。

進学に関しては美濃加茂高校の定時制は外国人の間では人気が高い。現状では、在学生はほとんどが外国人である。

 

4 のぞみ教室訪問

いろいろなお話をうかがった後で、車で10分ぐらいのところにある、「のぞみ教室」に案内してもらった。以下、先生から説明を聞いたことを下に記す。

 

古井(こい)小学校内に併設されて国際教室がある。正式の名称は「初期指導教室のぞみ教室」である。私たちが訪問したときは、十数名の子どもたちが学んでいた。それぞれの日本語に関する能力が異なるので、一斉授業という形ではなくて、それぞれが分かれて先生方から指導を受けている。子どもたちだが、日系ブラジル人とフィリピン人が多数を占めている。

私たちが訪問していた時は、ちょうどフィリピン人のお母さんが子どもを連れて入室の説明を受けていた。これからこの子どもは数か月はこの教室に通い、日本語や日本文化に慣れた後に、正規の学校に行くそうだ。平均して、3か月ぐらいこの教室で学ぶ。そのあとで、年齢に対応した学年に入る。つまり、10歳の子どもならば、小学4年生のクラスに入るのであり、たとえ日本語能力が不十分であっても、小学2年生のクラスに行く、というようなことはない。

子どもの中には、家庭の問題で学習に対する意欲を失っている子どもがいる。子どもの教育には、安定した家庭環境、それには安定した収入が必要だが、外国人の家庭では、その点が不十分なことがある。親の労働環境のひずみが子どもに投影されることがある(その点で子どもたちへの支援を続ける先生方のご苦労があることと思われる)。

この「のぞみ教室」は古井小学校の敷地内に建てられている。以前は倉庫であった建物の内部を改築して使っている。そのために、普通の教室のように学ぶのに必ずしも快適ではないが、これは今後の課題である。

 

5.まとめ

中部地区は工場が多くて外国人労働者の数が多い。岐阜県でも愛知県沿いの地域から次第に外国人の方が増えてきている。増加に伴い、地域住民との軋轢や衝突があるのではと危惧していたのだが、聞き取り調査では、うまく行っているようである。

岐阜県で最も外国人の多い市町村として美濃加茂市がどのように多文化共生社会へ向かっていくか、非常に興味が持たれることである。

 

5.謝辞

私どもの質問に対して丁寧に答えていただいた市役所の方々ならびに「のぞみ教室」の先生方に下に名前を記して深い感謝の念を表したい。

市民恊働部 地域振興課 課長補佐兼 多文化共生係長 久保田芳典氏
市民恊働部 地域振興課 国際交流員 大里誠治氏

教育委員会 教育長 日比野安平氏
学校教育課 清水氏

のぞみ教室の各先生方

本当にありがとうございました。