アルファベットで日本語の音を表記するときには、二種類ある。
1つは、ヘボン式と言われるものである。Wikipediaによれば、「日本語表記をラテン文字表記に転写する際の規則、いわゆるローマ字の複数ある表記法のうち、日本国内および国外で最も広く利用されている方式である」そして、「ジェームス・カーティス・ヘボン(James Curtis Hepburn)によって考案された。」とある。
もう1つは、訓令式と呼ばれるものである。昭和29年12月9日に内閣告示第1号として、「ローマ字のつづり方の実施について」を発し,各官庁はローマ字で国語を書き表す場合には,このつづり方によるべきことなどを訓令している。そして、ローマ字のつづり方 第1表・第2表を示している。
私が国語の時間にならったのは、ローマ字のこの書き方であった。私の名前は、「としあき」であるので、Tosiaki と記した。しかし、いつの間にやらToshiaki とするようになった。
このために、小学生はローマ字の書き方で混乱を起こすようだ。国語の時間にローマ字の書き方を学ぶのは、小学校の3年生のときからだ。でも、近年は外国語活動(英語)を小学校の3年生からはじめている。3年生の外国語活動では、話し言葉中心だから、さほど混乱は生じないが、段々と書き言葉も教える学年になってくると、2つの書記法があることに気づき困ってしまうだろう。
サ行は、日本人は「sa, si, su, se, so さしすせそ」と習って何も不思議に思わない。ただ、国際音声記号を用いると、/sa/ /ʃí/ /su/ /se/ /so/ となり、「し」の部分が異質であることが分かる。/s/は歯茎の裏に舌が近づいて摩擦を起こす音であるが、/ʃí/は舌がもう少し上にゆき、つまり硬口蓋の近くにゆき、そこで摩擦音を出すのだ。日本語の「し」はサ行の音の中でも異質なのであるから、そのことを意識させるためにも、shi とヘボン式で記した方がいいのかもしれない。
日本語の音韻体系では、何も問題となかったことが、ローマ字を頻繁に用いるとなるといろいろと不都合がことが起こってくる。「日本橋」、「新聞」、「天ぷら」はNihombashi, Shimbun, Tempura のように表記した方がよくなる。つまり、/b/ /p/のような両方の唇を閉じる音の前に来る音は、それに影響されて、唇を開けて出す音→閉じる音 /n/→/m/ になってしまうのだ。日本語だけを用いたときは何も問題なかったことが、外国人向けのスペルを使い始めると問題点が生じてくる。
だんだんと外国人が増えてきて、その場合は、ヘボン式のスペルの方が分かりやすいだろう。外国人に「日本にいる間は、訓令式でローマ字を読んでくれ」と依頼することもありだが、世界の大勢からは、はずれることになる。
ところで、NHK(2024年5月14日)に、「ローマ字表記 70年ぶり改定も視野に 文化庁の審議会に検討諮問」という記事を見つけた。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240514/k10014448921000.html
日本で暮らす外国人や海外からの訪日客が増える中、ローマ字表記について盛山文部科学大臣は、英語に近い「ヘボン式」が浸透している現状を踏まえ、「訓令式」を基本としてきた内閣告示の改定も視野に、文化庁の審議会に検討を諮問しました。
ローマ字には、日本語の読みに基づいて「ち」を「t・i」と表記する「訓令式」と、英語のつづりに近く、「ち」を「c・h・i」と表記する「ヘボン式」があり、70年前の内閣告示に基づき「訓令式」が基本として採用されてきました。
これについて14日盛山文部科学大臣は、時代に応じた整理に向け具体的な検討が必要だとして、文化庁の文化審議会に諮問しました。
この中では、当時はローマ字で国語の文章をつづることを想定していたものの、現在は日本語を母語としない人への配慮や国際社会への情報伝達に使われ、パスポートや道路標識などではヘボン式が採用されているとしたうえで、複数のつづりがある音やのばす音のつづりの整理などを求めています。
諮問を受け文化審議会は、内閣告示の改定を視野にローマ字の使い方を検討することにしています。
2023の文化庁の世論調査では「訓令式」と「ヘボン式」のどちらが学びやすいか尋ねたところ音によって意見が分かれていて、文化庁は今年度、詳細な調査を行うことにしています。
時代はヘボン式へか?小学生がローマ字の読み方を2つ覚えるのも大変だろうから、今後はヘボン式に統一ということになるのか。その方が小学生の負担は軽減となるだろう。