TPRという教授法について
特徴
TPR は Total Physical Response (全身反応教授法)を略した呼びかたである。話すことよりも、命令を聞いて全身で反応すること、また理解することを優先させる方法である。聞いた言葉を身体全体で反応することから、このようなネーミングとなった。
1960年代にJames J. Asherが提唱した指導法である。Listeningの活動を、その後に続く口頭練習に直接結びつけるのではなくて、その前の活動として、「内容を理解し、身体全体で反応する」ことを取り入れている。
これは幼児が第一言語を習得する方法をモデ ルにしたものである。言葉を聞いて全身で反応する、聴解力がつくことによって、自然と発表力がついてくるというものである。話し言葉の理解力を、話す前に伸ばすには、学習する言語で命令を発することだ。それによって、理解力は身体を動かすことによって伸びるし、翻訳を介さない、話すことを強制しない、したがって話すことに伴う緊張感が無い、ことになる。ただ、一斉にそろって動作をするとすれば、一人だけ間違った動作をしてしまうかもしれない、という緊張はあるのだが。
指導者の発話が「命令文」であることから、文型などの指導法としての 限界はあるが、授業の開始時などにwarm-upとして使用すると、学習者の緊張を和らげることができる。
リスニングの活動の例
(1)動作を付けやすい自動詞を発話して、学習者にその動作をさせる。
walk, run, jump, swim, sleep, dance, laugh, sing, fly, ski, skate
(歩く、走る、跳ぶ、泳ぐ、眠る、踊る、笑う、歌う、飛ぶ、スキ一をする、.スケートをする)
(2)動作をしやすい他動詞
eat an apple, drink some milk, cook potatoes, brush my teeth, wash my hair, drive a car
(りんごを食べる、ミルクを飲む、ジャガイモを料理する、歯を磨く、髪を洗う、 車を運転する)
ride a bicycle, point at my book, watch television, cut a tree, shake hands, read a book
(自転車にのる、自分の本を指す、テレビを見る、木を切る、握手する、本を読む)
(3) playを使った動作をする
play the piano (drums, harmonica, recorder), play baseball (basketball, volleyball, tennis)
ピアノ(ドラム、ハーモニカ、リコーダー)を演奏する、野球(バスケットボー ル、バレーボール、テニス)をする
(4)体の一部を使って動作をする
clap my hands, stamp my foot, rub my eyes, raise my shoulders, bend my knees
(手を叩く、足を踏み鳴らす、目を擦る、肩を上げる、ひざを曲げる)
wiggle my fingers, wave my hands, turn my neck, slap my knee (手を小刻みに動かす、手を振る、首を向ける、ひざをたたく)
課題
課題として「教室内でのTPRにふさわしい命令文を3つほど考え出しなさい」を与えて、そのあと実践させると有意義である。
活動の実際
手順
言葉を聴いて理解を身体で表現する。始めは教師による命令を聴き、動作のモデルを見て行う。次に2、3人、またはクラス全体で言葉を聴いて動作をする。明確な動作で曖昧さの恐れのないもので数回行う。始めは簡単な動作で、それからだんだんと複雑な動作に移っていく。さらに今までに聴いたことのない新しい命令を聴いても理解できるようになる。
時間の初めに、 前の時間の復習をしていく。およそ10〜12時間ぐらい教えたところで、今までに学習した分を含んだプリントを配って、読みの練習をするとよい。15時間くらい学習した後である生徒が教師の役割をして、他の生徒に命令を発する ようにするとよい。
命令は段階的に程度をあげてゆく。例えば、Stand. Sit. Walk. Stop. Run.次に、Stand up. Sit down. Point to the door. Walk to the door. Touch it. Open the door. Close the door.次に、Jump. Walk to the chair.を学んだ後、「新しい命令」を与えるとよい。そうすると、 Jump to the chair. Jump to the table.なども理解できるようになる。
学習者の役割
生徒は、個人でまたは集団で、教師の命令を聞いて動作で反応するので、 学習の内容は教師によって決められる。後になり、生徒が中心になって自主的に命令を発することがある。話すことを強制されないので、緊張感を感じない。もっぱら命令文による訓練である。
教師や他の生徒がする動作を見るだけでも効果があるが、自分で動作をしたほうがより大きな効果がある。
授業の初めの数分間を用いて行うことによって、生徒は抵抗感なしに理解し、そのうちに自分でも使えるようになる。席を離れても、また動作によっては席に座ったままでも行える。
教師の役割
何を教えるか、また新しい教材のモデルを示したり、演じたりするのは教師の役目になる。命令文をあらかじめ用意しておく必要がある。
教室内での活動の一例
①教師がまず命令を発して、自分で動作をして、生徒全員が理解するま で、数回繰り返す。生徒はそれを見て聞く。
②教師が命令を発して、生徒が動作を行う。
③今までに学習した命令文を教師が黒板に書き、生徒がそれを写す。
④教師の後について今までに使った命令文を口頭で繰り返す。
⑤志願者または教師が選んだ生徒が、命令文を言ったり、読んだりして、 他の生徒が反応する。
⑥2、3人のペアに分かれ、交互に命令文を発したり、反応したりする。
出典
アレン玉江『小学校英語の教育法』(大修館書店)
田崎清忠『現代英語教授法総覧』(大修館書店)