縦社会と横社会
「縦社会と横社会」は日本社会を読み解くキーワードとされています。
家族(内と外):まず、場を重んじる社会集団といえば、その代表的なものは「家族」です。家という集団組織のなかには、祖父母、両親、子供、孫という序列がありますが、それはたんに意識の上だけでなく、例えば食事時に座る場所とか、風呂へはいる順番とか、具体的な形となって決められているのです。そして、それが見事に愛情というタテ糸で結びつけられています。それを家族の絆(きずな)といいます。
家族の中で、子供が大きくなって他家に嫁いだりしますと、家族の「場」を離れることになりますから、「よその人間」になります。また、男の子が嫁を貰うと、他人であった嫁は「家の者」になり、他家に嫁いだ血をわけた自分の娘、姉妹たちより、よそからはいってきた妻、嫁というものが比較にならないほどの重要な地位を占めます。そこでは、「場」の論理が支配しているからです。
日本社会にはいろいろな社会集団がありますが、すべてこの家族集団のようにそのおかれている場所によって結びついているのです。
会社などの場合
一般の会社の例をとって考えますと、例えば、自己紹介をするとき、たいていの人は「トヨタのものです」といいます。事務系であろうと、現場系であろうと、管理職であろうと運転手であろうと、まず会社名を挙げます。この点で、職業や資格をまず挙げる欧米とは、大いに違うところです。ただ、現代は会社を自分の家族と見なす傾向は減りつつあると言えます。終身雇用制は以前ほど強くは機能していません。
タテから生まれる序列意識
個人と個人は横に並ぶ関係と考える欧米とちがって、日本では同じ場でタテに並ぶ関係と考えるから、そこにはどうしても格差の意識、序列の意識が生まれざるをえません。
英米には、家族にも、一般社会にも、長幼の序はありません。brother〈兄弟〉sister〈姉妹〉はあっても、兄、弟、姉、妹という言葉は存在しません。必要なときはやむを得ず、形容詞 older か younger をつけますが、そんな場合は極めてまれであります。それに対して、日本は兄か弟かが大問題となります。双子にさえアニ・オトウト、アネ・イモウトの関係をつけますが、これが欧米人にはわからないのです。
年功序列社会
このようにタテに並んだ集団の秩序を保つのは、年功序列というシステムです。そしてそれを支えるものは、何年にもわたって日本の精神的支柱をなしてきた「和」の精神です。タテ社会では序列意識が強いので、人間関係では礼儀が重んじられることになります。
敬語の発生
そして、会話では敬語が発達します。同じ事実を伝えるにしても、日本人は相手の立場に応じてどのように伝えるかに異常な関心を払います。目上であるか、目下であるか、同輩であるか、男であるか、女であるか、絶えずそのことを考えながら、コミュニケーションを行わなければなりません。
例えば、自分のことをどう呼ぶべきか、このことだけでも大変です。英語では「I」1語で済むところを、日本語では、わたくし、わたし、じぶん、それがし、わがはい、おれ、おいどん、あっち、こちとら、ミー、みども、小生、など、数えればきりがないほどあります。ヒマ人が数えたところによれば、広辞苑には116個の一人称が載っているそうです。みなさんはどれだけ言えますか。
様々な言い方
そしてさらに厄介なことには、使い方が一様でないということです。目下や同輩に対しては、「ぼく」「おれ」でいいが、目上になると、「わたくし」「わたし」と言わなければならない。一人称はI(アイ)一つしかない英語圏の人には、まったく頭の痛くなるような言葉です。
二人称も同じようなものです。相手も目下か同等なら、「きみ」「おまえ」でいいが、目上なら、「あなた」「あなたさま」と言わなければならないし、場合によっては肩書きで呼ばなくてはならないのです。外国人に取っては、お手上げです。それほど日本語の敬語の使い方は、彼らには難しいのです。