性格(Personality)
認知スタイルが個人の知的側面の特徴に注目するのに対し、このブログでは情楮的特徴と言語学習との関連を扱う。広義には、この両者が互いに相まって性格を構成する。
①外向性と内向性
:従来は外向的性格者の方が言語学習に成功する可能性が高いと言われてきた。たとえば絵を見せて解釈や感想を自由に述ベさせるテスト(pictorial stimulus test of oral Frequency)では、外向的性格者が良い成績を修めることが報告されている。それは自信、情緒的安定度、冒険心などの特性が外向性と結びつくからである。したがってcommunicative abilityが高いのは当然である。
しかし性格的要因もまた情況や活動内容によって変化するばかりでなく、文化による差異も考えられる。日本での調査では内向型の学習者の方が、readingやgrammarばかりでなく、発音もより正確で、oral interviewの評価でも外向型の学習者との差は発見できなかったとの報告もされている。結局この性格的特性も、単独で学習の成功を左右するほど強力ではないと思われる。
② 自負心
:肯定的な自己評価が、外国語学習の成功要因であることも、しばしば指摘されてきた。自分をありのまま受け入れ、他人との言語交渉の中で自分を肯定的にとらえ表現する能力は、母語の場合でも必要だが、精神的負担の大きい外国語でのコミュニヶーション、特に口頭での発表力との相関がきわめて高いと言われている。
ガードナ一等の調査でもまた、外国語学習の成功と自己評価との相関関係が発見されている。特に興味深いことは、自身の文化に誇りを持ち、かつ外国の文化にも興味を抱いている学習者の方が、自国の文化や生活様式よりも外国の文化や生活様式を高く評価する学習者に比して、成功の可能性が高いと指摘されていることである。外国語学習が学習者の自己像をおびやかすものではなく、それを拡大し成長を助けるものでなければならないことを示している。
③感情移入
:自己の枠を越えて、相手の立場に立って考えたり感じたりする能力もまた、言語学習、特に発音の正確さとの相関が高いことが指摘されている。ステビックはこの理由として、幼児期の言語発達の期間が、ちょうど母と子の間に感情移入が生ずる期間と合致することから、幼児期の温かく親密な人間関係の体験が、言語能力と感惜移入を共に発達させると考えている。
もしこの説が正しければ、訛のない発音は、脳細胞の生理的原因に左右されるよりむしろ、成長期にどのような人間関係を体験したかという心理的原因によるものと言える。他にも年齢や臨界期に関する要因が、さまざまな形で影響を及ぼしていると思われる。
結局感情移入の能力が高ければ、外国語の発音という奇異な刺激によって生ずる不安感を、容易に受け入れることができるからだと考えられる。こうした視点から行われた実験があり、そこでは被験者に少量のアルコールを与えて警戒心をゆるめたら、発音が一時的に改良されたと報告されている。発音も人の内面にこのように深く関わっている。
ただ感情移入の能力の高さが、外国語学習の成功を約束するわけではない。しかしこの能力が低ければ、マイナスに作用することは容易に推察できる。ガードナ一等の調査でも、グループの文化に固執し、他の文化に排他的な姿勢を取る学習者は、成功する可能性がきわめて低いと指摘されている。
④抑制
:人は誰も程度の差こそあれ、自己を防御しようとする無意識的な精神的メカニズムを持っている。特に抑制力の高い人は防御心が強く、新奇な物や危険性を伴うことを避けようとする。こうした人達には、外国語はこれまで母語で培ってきた自己像に、大きな潜在的脅威として感じられ、防御的姿勢を取ることになる。ですからこの抑制を取り除くことが言語学習の最も重要な鍵となる。自負心(self-esteem)や感情移入(empathy)が、抑制(inhibition)と密接に関連している。
(出典:米山・佐野著1985.『新しい英語科教育法』大修館)