ソクラテスの問答法
ソクラテス式問答法(Socratic Method、Socratic Debate)は、たがいに反対の意見を持つ個人間での質問と討論の形式であり、理性的思考を刺激しアイデアを生み出すための質問と回答に基づく。弁証法の一種であり、対立する観点同士で戦わせる弁論の形式となることが多い。一方が自説を補強するなどして、もう一方に矛盾を気づかせる方法である。
ネットで調べるとアメリカのロースクールの授業で好んで取り入れられている方法とのことである。日本のロースクールでもこの方法で授業を行うようにとロースクール改革の提案者たちは述べているようだ。
一般に日本ではソクラテスメソッドは成功しにくいと言われている。その理由は、(1)学生が対話形式の授業になれていない。(2)教員も慣れていないので、どのような問いかけをしたらいいのか分からない。事前に用意した問いかけではなくて、その場で思い立った質問であることが多い。(3)30人以上のクラスになると特定の学生とだけの対話になってしまう。
勤務校でのソクラテスメソッド
自分の授業をどのように改善していけばいいのか迷っている。このソクラテスメソッドという方法を使うことは可能だろうか。勤務校では、学生同士で質問・対話を行うのは難しい。教員と学生との間で対話を続けながら結論を導いていく方法ならば、勤務校でも可能かもしれない。
そんなことを意識しながら、ある英語の時間にこの方法で授業をおこなった。自分がソクラテスで、学生はギリシアの若い書生たちと思って授業をした。このクラスは登録者が12名で今日の出席者は10名である。これくらいの数だとかなりやりやすい。勤務校では、学生が自分から発話することはないので、教員が指名して発言を促すのである。昔はランダムに当てていたが、どうしても全然あたらない学生がでること、学生にある程度は次は自分の番だということで緊張させた方がいいことから、番号順に当てている。その場合でも、ある適当な番号を指名してそこから番号を下っていく当てかたである。この授業では、対話がなりたつか、この少人数の授業で成り立たなければ、ほかの多人数のクラスでは難しいだろうなと思って授業をしてみた。
さて、数回の授業を行ったあとの授業の自己評価だが、ソクラテスメソッドの観点からは及第点には達しなかったと思う。反省としては、どうしても教員側が学生に知識を聞く質問になってしまう。この英単語の意味は何か、この文章の意味は何か。つまり予習をしているかどうかの確認になってしまう。考え方を聞く質問がいいのだが、教養英語の授業では、そのような質問をすることが難しい。
英語だけを用いた授業ならば、ソクラテスメソッドはきわめて難しいと思われる。教育制度に関する論文を読ませてから、What do you think about the education system in Japan? のような質問を投げかけて、それに学生が答えることで、教育制度に関する理解が深まるのは、一流の大学だけで成り立つ授業だろう。
英文法の授業ならば、ある程度は可能かもしれない。その場合でも、教員側である程度の準備が必要である。「ここはなぜ定冠詞で不定冠詞ではないのですか」「この否定の副詞はどこを否定していますか。それはどうしてそう判断するのですか。」というような文法の質問ならば、ある程度はいけそうである。
日本語を用いるならば
日本語を用いる授業ならば、ソクラテスメソッドがある程度は可能だろう。ただ、かなり動機付けの高い学生であることが前提だが。
とにかく、科目の性格によっては、一方通行の講義形式の方が能率がいい場合もある。日本人の性格を考えると、ソクラテスメソッドがうまくいきそうなのは、自主ゼミなどではないか。教員がいないほうが対話は弾むであろう。
とにかく、自分の課題は、上手な問いかけをすることである。学生の可能性を最大限引き出す上手な問いかけ(質問の仕方)を考えてみたい。