コミュニケーションとは何か


コミュニケーションの定義

コミュニケーションの定義は「2人以上の人間が何らかのメッセージを交換して、意思疎通すること」である。その時には、メッセージの発信者と受信者がある。発信者と受信者は互いに入れ替わることがある。メッセージには受信行動(decoding)と発信行動(encoding)があるのだ。それを伝達する媒体も、音声、音声の抑揚、文字、 表情、身振りなどがある。
メッセージの内容自体も数多くあり、挨拶などを中心とする儀礼的コミュニケ一ション(ceremonial communication) 、情報伝達を目的とする情報提供コミュニケーション(informative communication)、説得を意図する説得コミュニケーション(persuasive communication)がある。

また、発信者と受信者が同一文化内にいる文化内コミュニケ—ション(intracultural communication) と異文化間コミュニケ一ション(intercultural communication) に分類することができる。

コミュニケーションではない行動

英語の授業において、目的や相手を意識しないで、単に英語を読む、聞く、という行為は、それだけではコミュニケーションではない。口頭での発音練習や暗唱などの練習も、コミュニケーションの準備にはなるが、コミュニケーションそのものではない。
また、一見コミュニケーションらしく見えても、実際はコミュニケーションではない、やり取りが行われることがある。例えば、教室で、次のような文を互いに言って練習したとしよう。

(1) Are you a student?
(2) Yes, I am a student.

(1)の文が、Are you~?という表現を定着させるために使 われている場合、両者の間では何ら情報の伝達はない。一方は答えを知っているのであり、何ら情報のやり取りはない。情報を求めているのではなくて、語彙・構文練習・理解度の確認といっ た目的でやり取りが行われている。このように、疑間を発する側も答える側も既に答えを知っている問いかけを事実疑問文(factual question)、それに対して本当に相手に情報を求める疑問文を指示疑問文 (referential question)と呼ぶことがある。
従来はコミュニケーション活動が、教室内では、皮相的な挨拶・会話や、このような擬似コミュニケーション活動のみに限定されることがあった。 しかし、『学習指導要領』に記された「コミュニケーション(能力)」が意 図するのは、より実際的なコミュニケーションである。よって、教員は、基礎練習にプラスして、そうした運用能力を向上させる方策を計画 ・実施する必要がある。

コミュニケ一ション能力とは

コミュニケ一ションを成立させるためには、言語を効果的に使 うための知識、そしてそれを実際に使える能力が必要で、これをコミュニ ケーション能力(communicative competence)と呼ぶ。Dell Hymesによる社会言語学的考察が参考になる。

Hymes による分類

Chomsky による有名な分類では、言語能力と言語運用を分けている。言語能力(linguistic competence)とは「話し手・ 聞き手の言語についての知識」(構造言語学に対して適切な言語形式を産出する能力を強調)であり、言語運用(linguistic performance)とは「特定場面における言語の実際的使用」とした上で、言語研究は、理想化された静的知識である言語能力のみを対象とすると主張した。
Hymes(ハイムズ)は、Chomsky による言語能力と言語運用という単純な2分法に異議を唱えた。Chomskyのこの2分法は言語の一側面しか考慮していないと批判して、言語の運用には次の4つの側面を知って いることが必要であると主張した。
文法的能力 (Grammatical competence) :文法的に正しい文を用いる能力。
談話能力 (Discourse competence) :単なる文の羅列ではない、意味のある談話や文脈を理解し、作り出す能力。
社会言語能力 (Sociolinguistic competence) :社会的な文脈を判断して、状況に応じて適切な表現を行う能力。
方略的言語能力 (Strategic competence) :コミュニケーションの目的達成のための対処能力。

Canale による分類

Canale (カナーリ)の意思伝達能力(communicative competence)を4つに分類したモデルも有名である。以下のように分けている。
(1)文法能力(grammatical competence) :文法能力とは,基本的な文法構造その他,文単位の文法に関する知識で ある。

(2)社会言語能力(sociolinguistic competence) :社会言語能力とは,相手によって依頼表現を変えるといった,社会 的文脈での適切性(appropriateness)を考慮できる能力のことである。

(3)談話能力(dis¬course competence): まとまった発話行為とコミュニケーション機能 を円滑に組み合わせる能力で,これによって「言語上の結束性」(cohe¬sion) と「意味上の一貫性」(coherence)を生み出すものである。

(4)方略的能力(strategic competence) :これは、これまでに挙げた3つのコミュニケ一ション能力の不備を補うために、種々の方策を用いることができる能力である。